それを嫌いになれないから

音楽、芝居、文学、自分が楽しめることを綴る場所

新派特別公演『犬神家の一族』観劇録

 2018年11月10日、大阪松竹座にて、劇団新派の舞台『犬神家の一族』、大阪千秋楽を観劇しました。東京公演はこれからということですが、ネタバレ全開の感想です。

十一月新派特別公演『犬神家の一族

2018年11月1日~10日 大阪松竹座(大阪)
2018年11月14日~25日 新橋演舞場(東京)

原作:横溝正史
脚色・演出:齋藤雅文

出演:水谷八重子, 波乃久里子, 瀬戸摩純, 河合雪之丞 / 浜中文一, 春本由香河合宥季(交互出演) / 喜多村緑郎, 田口守, 佐藤B作 / 他

www.shochiku.co.jp


十一月新派特別公演『犬神家の一族』ダイジェスト映像

 

 劇団新派のことも、金田一耕助のことも、よく分からないままに観ていましたが、面白かったです。でも面白い以上に色んなことに終始凄いなと驚いていました。

 舞台は全体的にとても美しい。セットが細部までとても丁寧でリアル。それでいて何度も何度も転換されるので、盆も回るし、襖や障子のセットも上から降りてくるし、ありとあらゆる技術をふんだんに使って、お芝居が続いている後ろで同時に転換が行われるのですが、その転換の様子さえも美しい。ここ最近観た舞台は、ワンシチュエーションや抽象セットが多かったので、なんだか新鮮でした。これが新派、というか伝統ある劇団というものなのでしょうか。知らんけど。

 女形も、おそらく "ならでは" ですよね。梅子役の河合雪之丞さんと、珠世役の河合宥季さん、お二人とも美しい。驚きました。台詞回しや所作で、梅子は嫌な女の感じが溢れていて、一方の珠世は健気で強か。しかも、珠世役はWキャストだったわけで、もうお一方は春本由香さんという女優さん。男性と女性でWキャストってそんなこともあるんですね。というか、実のところ河合宥季さんって名前見ただけだと女性だと思っていたんです。それにどちらが出演されるかも考えずにチケットを取ったので、今となっては河合宥季さんの女形を観ることができて良かったです。女性がやる珠世像はきっとまた随分と違うのでしょうね。今の私は、珠世は宥季さんでしか想像できなくなっています。本当に美しく、そして素晴らしかったです。

 女形に限らず、キャストは皆さん素晴らしかったです。芝居については詳しくないので偉そうなことは言えませんが、特に松子波乃久理子)と宮川香琴水谷八重子)の貫禄と迫力には圧倒されました。竹子瀬戸摩純)も好きだったなあ。好きと言えば、佐武佐智も、ちょっと役者さんのお名前を存じ上げず申し訳ないのですが、お二方とも素敵だなと思って見ていました。誰か役者さんのお名前を教えて。あとは、警察署長佐藤B作さんがピンと張りつめた空気の中に時々笑いを入れて下さって、それがいいアクセントになっていて面白かったです。

 さて、お目当ての浜中文一さんですが、なんかもう言葉を失うほどに凄かった。そもそも少ない語彙力がさらになくなります。佐清静馬の二役を見事に演じられていました。ストーリー上、二役とも顔を隠しているので、もうほとんど(主に一幕)お顔が見えないという、ジャニーズなのにそれでいいのって感じでしたが、それも含めて素晴らしかったです。

 一幕は本当にずっとマスクを被っているので「本当に佐清なのか」ならぬ「本当に浜中さんなのか」状態でした。声もマスクで籠っている上にドスの効いた太くて低い声は今まで聞いたことのない声だったので、さらに疑念(浜中さんだと思って聞くと浜中さんかなと思うような状態)。静馬と思われる復員兵もずっと顔を隠しているし、でもこちらの声はいつもの浜中さん。問題はこの二人が時間をあまり置かずに頻繁に登場するということ。おまけに二幕にはこの二人が対峙するという重要なシーンもあって......。

 と、今、思い出しながら書いているのですが、あれ、もしかして、顔を隠しているときの復員兵はずっと浜中さんじゃなかったのかと思い始めた私がいます。そもそも顔さらした(浜中さんとはっきりわかる)状態で佐助も静馬も演じているのだから二役はちゃんと演じているはず。ということは、顔を隠した復員兵は別に中の人が違ってもおかしくはないのか。二人が対峙するシーンは別の人だろうし……このシーン、白いマスクを外すまで復員兵のほうが浜中さんだと信じ込んでいた私。でもマスク外したら浜中さんが出てきて思わず「えっ」と声が出てしまった......。でも復員兵の声が浜中さんだったように思うんだよなあ。逆にマスクの下の声は違うように感じたんだよなあ。逃げまどっている間に入れ替わったのかとも考えたけど、そんな余裕はなさそうだったし、じゃあ、声は?ってなるんですが、録音してたのか?それとも私の聞き間違い?チケット代をケチって2階席にするんじゃなかったと、ひどく後悔しております。双眼鏡で追ってる間にいろいろ見落としている気がする。ああ、誰か教えて。(※追記:いろいろと調べに調べた結果、やはり湖畔で二人が対峙するシーンは、前半は復員兵(ほんまの佐清)が浜中さんで、逃げまどって裏に回ったときに入れ替わって、後半はマスクの方(ほんまの静馬)が浜中さんになってだからマスクを外したら浜中さんが出てきた模様。お声も一部録音だったようで、自分の目と耳が正しかったことに安心したとともに、浜中さんのあまりにも素早い入れ替わりと見事な演じ分けに恐れ入りました。さらに、ほとんどお顔の見えない一幕も、ちゃんとマスクの方も復員兵の方も浜中さんが演じられているということで、疑って申し訳ありませんでした!まんまと騙されていました。本当に同じ顔の佐清と静馬でした。ああ、凄いわ。)

 中の人の事情について、とやかく言うのは止しましょう。そんな疑念に囚われさえしなければ、瓜二つの顔を利用したトリックはとても面白かったです。ずっと佐清だと思い込んでいた低い声の不気味なほうの男が静馬で、実際の佐清は母親への愛情に溢れていて心根の優しい人だったのだと気が付いた時の驚きというか感動というか......。それであの最後は切なすぎました。静馬、報われないじゃないか......。一方の静馬は、実際恐ろしい奴だったわけですが、母・菊乃は母親思いで心根の優しい息子だと、まるで佐清の人物像のようなことを語る。それがミソなんですかね。でも、菊乃が宮川香琴として犬神家に上がったとき、「女たちは信用できない」と佐清がお茶を持って来たのは、佐清になりすましている静馬が母親だと分かってとった行動というわけですよね。そう考えると、菊乃の言う優しい人だというのにも納得がいくんですよね。それなのに結局殺されて......、ああ、こっちも切ない。佐清も静馬も......。というか、佐清なのか静馬なのか分からなくなってきた。ああ、もう一度観たい。なんで千秋楽にしたんだ。もう次がないじゃないか。数か月前の私のアホ。

 物語の内容に関して言うと、有名なものなのでちゃんと予習していけば良かったなと後悔しました。というのも、ミステリーなのでそれなりに複雑で途中見失いかけました。最後の謎解きでなんとなくは理解できましたが、登場人物が多いし、そもそもキャストの方のお顔の判別もできていないし、ちょっと大変でした。理解が足りていないところが多いので消化不良がたくさん。結局どこが佐清でどこが静馬だったんだ?とか、4人とも松子が殺したの?とか、じゃあなんで佐清が捕まるんだ?とか、そもそも若林なんで殺されたんだっけ?とか、他にも小さな疑問は山ほどあるのですが、これは原作を読んだら解決しますかね。今度、フジテレビで年末に加藤シゲアキさん主演でドラマ化されるというし、それを見たら多少は復習できるかな。でも、そんな私でもとても面白いと感じたのは事実です。単純な思考回路なので、佐清と静馬と入れ替わってることや菊乃の正体なんかが分かってくると、あれもこれもそういうことだったのかと合点がいって、もう驚きまくりでした。ミステリーは楽しい。とりあえず原作、読んでみます。

 でも不思議だなと思ったのは、これは主人公は誰だったのだろうということ。原作や映画がどうかは知りませんが、一応金田一シリーズということなら金田一喜多村緑郎)が主人公?でもこの舞台では金田一の存在ってあまり重要ではないんですよね。家族愛や憎しみがテーマなのかな。ミステリーだってことは二の次って感じで、佐清や珠世が重要なのはもちろん、松竹梅の三姉妹が話を動かしている。ほんでもってチラシは(劇団の序列もあるのでしょうが)宮川香琴がトップですしね。だから最後の謎解きのシーンが来るまで、実は謎解きミステリーだってことを忘れていた私。群像劇というのとは違うような気もしますが、それに近いような感じがしました。原作や映画が金田一の謎解きを中心に物語が回っているのだとしたら、この舞台ならではの描き方は面白いものだったのではないかなと思いました。

 最後は冒頭に似た記念撮影のシーンに戻って正装した皆さんがそのままカーテンコールに入るのが少し不思議な感じでした。最後に、波乃さん水谷さんのお母様お二人のお手を引いて真ん中に立つ浜中さんがとても誇らしかったです。浜中さん自身は少し照れたように控えめで、ペコペコしながら自分の立ち位置に戻っていきましたが、千秋楽ということで何度か幕が上がって、再びお母様たちに呼ばれてエスコートする姿が素敵でした。2回目以降はあまり決まっていなかったのか、グダグダになりつつも皆さんニコニコしながら楽しそうに順番にお辞儀されて、和気あいあいとした様子が見られて嬉しかったですね。特に最後に幕が下りる直前、ずっと控えめにニコニコしながら立っていた佐清に、隣にいた珠世さんが突然寄り添ってちょっかいを出し始めて、その姿がとても可愛らしくて可愛らしくて......。カーテンコールって、物語世界の境界線みたいな物だと思うんですよね。衣装着てセットの中で、でも役者としてお辞儀していく中で、こういう絡みがあると、ふっとまた物語世界のほうへ思いが飛んでいくというか。実際には、宥季さんの粋な計らいで、浜中さんが照れてる構図なわけですが、佐清と珠世がこんな風に仲良く暮している幸せな世界になればいいなあと、切ない最後だったからこそ、ふと思いました。

 新派の舞台は初めて観劇しましたが(というか、新派自体もほとんど初めて知ったようなものですが)、いろんなことに圧倒され驚かされ、本当に素晴らしい劇団だと感じました。そして、そんなすごい劇団の凄い役者の皆さんの中に、自分の応援する浜中さんがいることが、本当に嬉しくて誇らしくて、よいものを見せていただきました。たかが5千円くらいケチらずに一等席で見ればよかった......。可能性は低そうですが、もう一度観られる日が来たらいいなあ。

 

犬神家の一族 金田一耕助ファイル 5 (角川文庫)

犬神家の一族 金田一耕助ファイル 5 (角川文庫)