それを嫌いになれないから

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大人の新感線『ラストフラワーズ』を今さら見ました、映像で。

 今年3月にWOWOWで放送されていた大人の新感線『ラストフラワーズ』を観ました。なんか時代遅れですね。大人計画はもうすぐ『ニンゲン御破算』が始まりますし、劇団☆新感線は『修羅天魔~髑髏城の七人 season極』の真っただ中だと言うのに。でも最近見たんですもの。公演自体は2014年に行われ何度か放送されていたようですが、私はこの度初めて拝見しました。

 以前紹介したように突然に個人的大人計画ブームといいますか、もうすっかりファンになってしまいました。とは言ってもまだ映像でしか見たことがないので『ニンゲン御破算』はぜひ観てみたいなと思っているところなのですが、いかんせん人気公演なのでチケットが取れるか心配です。

 さて、短期間の間に大人計画のこと、小劇場の演劇のこと、それなりに勉強いたしました。大人計画の過去の公演も可能な限り漁りました。そうやって調べている間に気になったのが大人の新感線『ラストフラワーズ』です。演劇について調べていれば、もちろん劇団☆新感線についても少なからず触れてきました。大人計画と新感線のタッグ。未熟者にもこれがいかに魅力的なものであるかは一目瞭然でした。なんとか観てみたい。そんなときにいいタイミングで放送されていたのです。というわけで、公演からは4年近くが経過し放送からも時間が経っていて今さら感満載ですが、少しばかり感想を述べてみようと思います。

 やはり演出の力は強いのか、演出がいのうえひでのりさんということで一見した印象としては新感線らしさを強く感じました。太鼓や東京スカパラダイスオーケストラによる壮大で華やかな音楽やダンスは圧巻です。また登場シーンやちょっとした動きやギャグに細かく効果音が乗るのは新感線らしさの象徴だったりするのでしょうか。あまり数を見ていないので分かりませんが、私が初めて新感線の作品を観たとき一番印象的だったのがこの効果音でした。音が付くことでただでさえ面白いギャグがさらに面白くなり安心して笑えます。

 そうは言っても、脚本の松尾スズキさんが作り出した物語はさすがです。それぞれの話が同時進行で進みはじめはバラバラに見えるのに、点だったそれらのエピソードがひとつずつ徐々に線で結ばれていき一か所に収束された瞬間はある種の喜びを感じます。時間軸のずれが少なかったので他の作品よりは分かりやすく、内容もさることながら物語が繋がったことに感動しました。内容も物語の根本は他の作品と比べるとシンプルで分かりやすく、それを形作るそれぞれのエピソードが濃密で面白かったです。

 あらすじもネタバレも今さらどうってことないと思うので、だらだらと感想を書きます。

 橋本じゅんさんの二役には驚きました。勝場典明とシン・ジョンホンという重要人物二人を演じられていて、それぞれが敵対組織なだけに正直はじめはどっちなのか混乱しました。二役である必要性はあるのかと疑いましたが、後半でシンが典明を呼びに行くシーンを観たときに納得。感動さえ覚えました。「お前のキャリアならできる」笑いました。キャリアの問題じゃないですよね。でも入れ替わりがとても速くてそれだけでも十分素晴らしかったです。シンを演じられている時の橋本さんは本当に可愛らしくて、一方の典明は貫禄があり、役者さんって本当に凄いんだなと思いました。

 新感線の作品は大人計画に比べるとまだあまり観ていないので役者さんもあまり知らなかったのですが、河野まさとさんと粟根まことさんがとても気になりました。河野さんは若い方なのかなと思っていたのですが、実際の年齢を知って驚きました。河野さん演じるミャーの高い身体能力や軍二郎(阿部サダヲ)に甘える様子、その他もろもろの言動や仕草からとても若々しい印象を受けていたので本当に驚きました。粟根さんはお声に惚れました。サルバドルはどちらかと言えば悪役でしたが、その嫌なヤツ感が全身から漂っていました。それなのに長〜いワイヤーが付いていて飛んだり、セレスティーノ(松尾スズキ)との絡みではコーヒーや唾はかけられるし、最期のシーンなんか「はいみつきんかんのど飴」「ノーベル」ですから。そのダークさと笑いのギャップに楽しませていただきました。

 古田新太さんはよく存じていましたが、知らなかった一面をたくさん見た気がします。かっこいいのに至る所にボケがかまされてずっと楽しかったです。軍二郎(阿部サダヲ)の事務所でのシーン(ゆっくり考えて銃を撃つやつ)とか、早川(宮藤官九郎)の病室のシーン(強気の取り立てだったのにええ話や~言って怪我が自分のせいだと知って落胆する一連のくだり)とか、松尾さん演じるオンドルスタンの軍人との一連の絡み(特に「洗濯ネット」これ面白いの松尾さんか)とか、「おどれー!踊るな!」(これも面白いのは犬塚(星野源)とひかる(平岩紙)か)とか、終始笑ってました。ファットダディとしての三蔵さんのわかりやすいほどにコテコテのトーンの高い関西弁は本当に面白くて大笑いしました。ミッシングの時(特に殺陣のシーン)はかっこいいので、余計に笑わせてもらいました。高田聖子さん演じるみよ子との朝から濃厚なキスにも役者魂を感じました。高田さんもみよ子のザ関西のおばちゃん感とミンスのときの貫禄あるお姿とのギャップにやられました。いやー、新感線恐るべし。

 唯一客演の小池栄子さんは両劇団員のキャラの濃さに負けず劣らず素晴らしい存在感でした。小池さん本当に可愛い。そしてセクシー。オープニングのお歌からもうエロい。何なんですかね、あの美しさは。それでいて演じられたnananaはなかなか突飛なキャラクターで笑い要素もしっかりあり、小池さんのこと好きになりました。素晴らしかったです。

 大人計画に移りましょう。今回一番笑ったのは荒川良々さんかもしれません。いるだけで面白い。特に登場シーンが好きです。「刑期満了です」の笑顔とか「整形しました」「前は和泉元彌みたいだった」とか、これだけでも面白いのに新感線ならではの効果音があいまって笑いが止まりませんでした。面白いと言えば皆川猿時さん演じるジョンオクのオンドルスタン語も笑いました。アドリブのようですが酷いですね。でも楽しかったです。こちらは意味ある二役でピッグも演じられていましたが、こちらはとてもキュート。サルバドルに言う「肌の質感が嫌〜い」がツボでした。

 村杉蝉之介さんの豹変ぶりにはいつも感動します。お芝居されてる村杉さん大好きなんです。今回は三役されていて、前半のつげ分析官は真面目な役で服装も含めとてもハマっていたのですが、後半はオンドルスタンのヒュンダイというまったく正反対の暴力的な役柄で、この豹変ぶりが素晴らしかったです。でもそれ以上にこの二つの役の間に演じられたドンナム(村木仁)を拷問するベク教授が強烈に印象的でした。つげともヒュンダイとも全く違うある意味ヤバイ役でそのヤバさが妙にハマってました。「吹くほうがいい?吸うほうがいい?こちらの希望をいうと吸うほうが好き」今でも脳内で反芻されて思い出し笑いが続いています。

 宮藤官九郎さん演じる早川速男は何気に重要な役どころでしたが、そのキーパーソンぶりよりもギャグパートが印象に残ってます。アニメーションとともにたい焼き屋の実情を訴えた『道路のたい焼きくん』最高でした。生着替えは嬉しかったですね。ブツブツ文句を言いながら着替えてる姿は面白いですし、見つかった時の応戦の言葉にも笑わされました。三蔵との絡みも好きでした。「ホモなの?」「小さすぎるぜ」お互いにボケたりツッコんだりとても面白かったです。早川にも『ラストフラワー』歌ってほしかったなあ。

 阿部サダヲさんは二役と言いつつ、実際に軍一郎を演じられたのは1シーンのみでほとんど軍二郎でしたが、この軍二郎にまんまと私も騙されました。登場シーンこそふざけていたものの狂気じみた軍二郎の印象が強いせいか、面白いシーンの記憶があまりないのですが、ツッコミのほうが多かったのかな。でもオンドルスタンに入国した時の変装と「山ほど~」には笑いました。

 物語について考えると話がまとまる自信がないのですが、みんなそれぞれの信念があって動いているのだがそれが噛み合わないから争いが起こるのかなと少し思いました。不条理とか矛盾とか世の中にはそんなものばかりが溢れていて、悪いと思われていた人たちも完全に悪い人ではなくて、でも人知を超えたものを人間はやはり排除しようとするし、でもそれさえも情けをかけて手を差し伸べてしまうのが人間で。愛する者を失い、たくさんの血が流れ決してよい結末ではないものの、ジョンオクの愛した早川の平和の曲『ラストフラワー』とともに世界の平和は守られて、三蔵も娘を殺した軍二郎を引き取って、すべてが上手くいくわけではないけれど、これも一つの正解なのでしょうね。もう少し大人になったらもう一度考えてみたいと思います。

 音楽はさすが東京スカパラダイスオーケストラさん、めちゃくちゃかっこいいです。ブラス音がスパイを題材にしたこの壮大な物語に絶妙にマッチしていてさらに盛り立ています。オープニングでnananaが歌う曲なんか特にセクシーでカッコいいです。それとは対象的に、早川の『ラストフラワー』はアコギの音色も相まって明るさの中に少し切なさや哀愁が漂うような美しいメロディー。しかし、EDは一変して軽快な曲調で明るく、同じ曲でこうも変わるのもかと感動しました。キャスト全員で合唱するラストは胸が熱くなりました。『ラストフラワー』本当に名曲です。スカパラ版の『チャンス』も素晴らしかったです。

 物語こそ難しくて3回くらい繰り返し見てやっと分かってきた感じですが、とても楽しませていただきました。本当にもっと早く出会いたかったと日々思い続けています。またこんな夢のような舞台が行われる日を夢見て、4回目の『ラストフラワーズ』を録画で観たいと思います。