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映画『幼な子われらに生まれ』で見た家族の在り方

  2017年公開の映画『幼な子われらに生まれ』を見ました。

 原作は1996年の重松清さんの同名小説。なんでも重松さんと脚本の荒井晴彦さんとの間で映像化する約束をされていたそうで、21年の時を超えそれがついに実現したそう。監督は三島有紀子さん。2017年8月26日に全国公開されました。

 主演は浅野忠信さん。共演は田中麗奈さん、宮藤官九郎さん、寺島しのぶさんです。

 物語は再婚した主人公・田中信(浅野)とその妻・奈苗(田中)と連れ子の血の繋がらない家族の話。妻の妊娠をきっかけに歪む家族と、それぞれの元妻や元夫との関係、子どもの純粋さや葛藤が描かれます。


映画『幼な子われらに生まれ』本予告

 予告であらすじを把握していると、映画の始まりが実の娘・沙織(鎌田らい樹)との面会から始まるのには驚きました。会話の端々に現在の状況が現れていますが、それがなければごく普通の仲の良い親子のように楽しそうな二人の姿。でも3か月に一度しか会えないからこそこうまで楽しめているのかとも思ったり。一変して観覧車のシーンは少し寂しい。娘に甘える父親ってどうなんだ。後にメールでも愚痴を言っていたし(結局は送信していなかったようだが)。娘が継父と上手くやっているのに嫉妬を抱いているのかなとも思いました。娘の笑顔を独り占めしたいのか、自分が妻の娘・薫(南沙良)と上手くいっていないからか。

 会社の人(池田成志)との意見の違いも興味深い。働く父親の背中を見せるべきか、今一緒に過ごせるときに一緒に過ごすべきか。この時は、本当は働きたいけど再婚だから頑張って家庭を大切にしているのかなと思っていたのですが、回想で元妻・友佳(寺島)の仕事に夢中なところを嫌がっているようだったので、そういう性分なのでしょうね。でも出向になって「ロボットみたいな仕事」と言ったのはやはり仕事にもやりがいがほしいのか。人間そんなに簡単ではないからどちらも本心なのでしょう。

 前の父親を覚えていない娘・恵理子(新井美羽)は信に普通に父親として懐いているようで、その純粋さが時々痛いです。一方、姉の薫は完全に不機嫌。思春期というのもあるのでしょうか。よく分かりませんが、妊娠を知ってこうなったってことですよね。飾られている写真などを見る限りでは楽しそうに映っていますし、後の回想で初めて信と会った時も、ずっと男性を怖がっていたのに心を開いていたようですし。信と奈苗の血の繋がった子供が生まれると聞いて、思春期であることも含めて、改めて信と血が繋がっていないことを意識してしまったということでしょうか。ちょっと過剰な拒否反応のような気がしますが、良く思えないのは自然な反応のように思います。

 妻の奈苗はマイペースというか少し空気が読めない様子が腹が立つほどでした。薫が本当の父親・沢田(宮藤)に会いたいと言った話を聞いて「沢田と薫を会わせることを心配するより、あなたが沙織さんと会わないようにしてくれた方が私は嬉しい」と話したのには無神経にもほどがあると思いました。沢田は家庭内暴力をふるっていたようなので薫と会わせたくないのは分かりますし、同じ考えで前の家族と会う必要はないと考えているのかもしれませんが、ちょっとひどいなと思いました。後に薫自身が二人の前で「このうち嫌だ。パパに会いたい」と言い出した時も空気読めない感じが炸裂していて薫や信の感情を逆なでするし苛立ちを通り越して、こういう人いるよなーと感心してしまいました。

 この3人の言い争いのシーンは印象的でした。薫の言う、なぜか分からないけどなんか嫌だという感じも言葉にしづらいですがとても理解できます。でも3人とも意見が違って、どの言い分も理解できる一方で、それらはもちろん噛み合わないし妥協もできない。この複雑でどうすることもできない不毛な言い争いを父親という立場でとりあえずねじ伏せ、でもそれぞれに消化不良に終わっているところがなんともリアルでした。

 沢田は自分が家族にしたことを分かっているというのが、悪気なく暴力ふるって束縛する人より逆に残酷だなと思いました。「別れるために嫌がることをした」という言葉もそれを物語ります。絶妙なタイミングで挿し込まれる回想の家庭内暴力のシーンが本当に怖い。奈苗だけでなく子供にも手を上げ、最後に映る折れた血まみれの歯が悲惨さを物語ります。沢田の言う、すがってくる妻や雁字搦めにしてくる子供が煩わしかったという言葉が、信にも実は当てはまっていたのだと後で思いました。信が「どうしたらいい?っていう奈苗も、薫のことも分からない。恵理子だって何言いだすか」と叫び、子どもたちの前で奈苗を押し飛ばしてしまい「結局その人も同じだったんじゃん」と薫に言われるシーン。かなり時間を隔てていますが、ハッとなりました。それがあって、沢田に手間賃10万円だけでなく40万円も渡して薫を引き取ってもらうことを一瞬でも考えてしまったのでしょう。結局10万円に踏みとどまったのがせめてもの救いでした。

 元妻の友佳とは娘との面会もあって関係が良好なのが沢田とは対照的でした。しかしこちらの二人も夫婦としてはあまりにも価値観が合わな過ぎたのでしょうね。回想で信に無断で子供をおろした時の言い合いは、これまたどちらの言い分も分かる分、決着がつかないのがもどかしい。無断でしたことは良くないけど、仕事をしたい友佳にとって子供がいたら両立できないだろうと思うのは当たり前。一方の信が相談するべきだったと主張するのも分かるが、子どもがいても仕事すればいいというのは簡単に言えることではないですしね。難しい問題です。でも久しぶりに再会して「理由は聞くけど気持ちは聞かない」と信に言った友佳の言葉はちょっと疑問でした。あの流れで気持ち聞けるかな。なんで?どうして?になるのは自然だと思うのですが。まあその時の私の気持ちも考えてってことなのでしょうが。

 この二人の再会を聞いて沙織は信に会いに来るわけですが、ここでもいろんなことが対照的に描かれます。沙織と継父は、信と友佳がたまには会うべきだと言っていたというし、でも実際に会うと沙織は継父のことがかわいそうになったというし、薫や奈苗とは明らかに違いました。本当に様々な形があるものです。

 この最中、末期がんの継父の危篤が告げられ、奈苗と恵理子も乗った車で沙織を病院へ連れていきますが、このシーンは一番好きかもしれません。恵理子が沙織と信の関係を尋ねたときの沙織の「お友達」という回答。感心させられました。幼い恵理子に説明するにはそれが妥当だった訳ですが、上手く言い表した言葉だなと思いました。きっとその言葉があったから、初めは嫌悪感をあらわにしていた奈苗も、信と沙織を微笑ましく送り出すことができたのでしょう。

 継父のことを悲しめないという沙織でしたが、病院では泣いていました。信との関係は良好だからこそ「友達」と表現したのでしょうが、道中に恵理子から赤ちゃんが生まれる話を聞いたことで、自分には知らされていなかったうえに信にも別の家族があることを思い知り、自分の今の父親は継父だけだと感じたのではないかと思いました。信と継父を会わせたいという沙織が健気でした。

 病院からの帰り道で信が恵理子に事実を話すシーンも好きです。沙織は前の奥さんの子供、薫と恵理子は前の旦那さんの子供、でも今は二人の父親は自分だけ、一番大切なのは二人だと言った後で、無邪気な恵理子の「恵理と沙織ちゃんはお友達」という言葉が純粋ながらも心に響きました。子どもだからこそ言えた言葉。きっと幼いながらも事実は理解しているのだと思います。そのうえでこう考えられる純粋な心が羨ましいです。

 薫と沢田の待ち合わせ場所に信と恵理子が行くシーンもよかったです。薫が会う相手を「友達」だと恵理子に説明し、屋上で会った沢田のことを恵理子の「友達」だと言う。この「友達」という言葉、本当に素晴らしいと思います。親子とは言えないからこそ、それでも他人とは違う繋がりのある複雑な関係を幼い子供に言い表すのに本当にぴったりだと思います。正装してプレゼントまで用意していた沢田は少し人が変わったようで、恵理子を見る目は優しく父親のようでした。薫との思い出を語りますが、彼にも少なからず罪悪感とか父親としての思いとかがあったのかもしれません。完全な悪者ではなかったのでしょう。

 沢田と会わなかったくせに会ったと嘘をつく薫に、「お父さんに会いたい」というのはやはり意地悪で言っていたのだとここで気が付きました。以前、暴力を振るわれていたことに触れながら本当に会いたいのかと信に問われたときに怒った薫は、沢田を侮辱されたせいかと思いましたが、本当は沢田のことが怖くてそれを思い出させるようなことを言われたからだったのかな。静かに薫の嘘がバレていることを示して諭す信は本当の父親のようでした。「どんな気持ちになった?」というのは友佳の「気持ちは聞かない」という言葉があったからこそですよね。友佳とのシーンと同レベルでは考えられるものではないと思うのですが、信としては成長した姿ということなのでしょうか。プレゼントの子供っぽいぬいぐるみを抱きながら泣く薫は何を思ったのでしょう。ああやって優しく諭されて同時に慰められると理由は分からずとも涙って出てくるものじゃないですか?怖かった沢田の優しさ、嘘をついて約束を破った罪悪感、それを見透かされ叱られる悔しさや情けなさ、そして何より他人だけど父親である信の温かさに、いろんなものが溢れ出たのだろうなと思います。あの薫にはとても共感しました。

 これがあって薫も少しは変わったのでしょうが、一度作った壁というのはそう簡単に壊せるものでもありません。そこで祖母の家で暮らすという選択肢はこれまた名案ですね。適当な距離を保ちながら家族としてちゃんと前に進み始めている様子が最後に描かれているのが、すっきりしない箇所がいくらかありつつも最後にしっかり締めてくれた感じがして好印象でした。後味の悪い映画もまあ嫌いではないのですが、少し希望があった方が気持ち的にも楽ですね。

 演技についてどうこういうのはあまり好きではないですが、みなさんとてもリアルというか、特に子役の3人がリアルで、リアルすぎて本当に実在しそうで逆に怖かったです。でも年齢設定には違和感がありました。実年齢が設定よりも年上過ぎませんか。それから、物語の序盤で信が沙織と薫にそれぞれお酒を飲むかみたいな件がありましたが、あれはどういう意図なのでしょうか。相手が高校生くらいならまだしも小6相手にちょっと違和感がありました。

 思うところもいろいろとありますが、全体的には見てよかったと思える作品でした。自分には経験のない家庭環境ですが、今もこれからもこういった家庭は少なからずあると思いますし、働く女性や男性の仕事への向き合い方、子育てや家庭内暴力など、とても現実的な問題を扱っていて考えさせられることも多々ありました。明確な答えが出されたわけではないですが、ひとつの家族の在り方として、何かヒントを与えてくれるような映画でした。重松さんの原作小説も読んでみようと思います。

 

幼な子われらに生まれ (幻冬舎文庫)

幼な子われらに生まれ (幻冬舎文庫)