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ドラマ『カルテット』が素晴らしい

 今、日本テレビで放送中の連続ドラマ『anone』を見ています。脚本を手掛ける坂元裕二さんの描く世界観に、完全に虜になっています。そうして思い出したのが、2017年1月から3月に放送されたTBS火曜ドラマ『カルテット』です。主演は松たか子さん、主要キャストに満島ひかりさん、高橋一生さん、松田龍平さんが出演。弦楽四重奏Quartet Doughnuts Holeを組むことになった、真紀(松たか子)、すずめ(満島ひかり)、家森(高橋一生)、別府(松田龍平)ら四人の嘘と恋が入り混じったラブサスペンスです。

 キャッチコピーにある「全員嘘つき」というサスペンス要素は見る前から面白そうだなと思っていました。実際に、カラオケボックスでの4人の出会いのシーンから嘘に溢れていて、それぞれに秘密を抱えて仮面を被った共同生活が繰り広げられます。その中で少しずつ、それぞれの嘘が明かされていく展開は巧妙で見事でした。はじめは、別府、家森、すずめらが真紀を騙している構造だったのが、後半では逆転して真紀が3人を騙していたというどんでん返しには驚かされました。嘘だったと分かる時も、そこまでにたくさんの伏線がひっそりと散りばめられていて、それらを見事に回収していくので、視聴者としては本当に面白いです。伏線は上手すぎて、後に見返して気づくということも多々あり、何度見ても新たな発見がありました。

 もう一つのキャッチコピーである「全員片思い」というラブストーリー要素についても、ベタベタとせずドロドロもせず、そうかと言ってスッキリするわけではありませんが、とても面白い恋愛ドラマでした。まさに「全員片思い」で、ある意味四角関係なわけですが、そこで揉めてカルテットの仲が揺らぐようなこともないのがとてもよかったです。別府は少し積極的でしたが、真紀はあくまで夫・幹生(宮藤官九郎)を(離婚後はメンバー三人を)想っているので、抑えてくれるし、すずめも自分の好きを脇において別府のために別府の恋を後押しするからドロドロすることは一切ない。一番切ないのは家森で、家森の想いは多分メンバー誰も知らず、こっそりすずめのために尽くしている様子がとても健気でした。第8話、すずめが別荘の鍵を忘れて入れずにいるところへ、家森がたこ焼きを買って帰ってくるシーンの後、別府と真紀がたこ焼き屋の店主に、さっきの客が片思いの好きな子のためにたこ焼きを買っていった話を聴きます。この家森の気持ちが視聴者にだけ分かるという描写は素敵でした。

 そういったサスペンス要素や恋愛要素が面白いのはもちろんなのですが、このドラマが面白いのはそれだけではありませんでした。ちょっとしたシーンのちょっとした行動や会話がとてもリアルでとても面白いのです。そしてそれはただ笑えるというだけでなく物語の根幹に常に関わっているからさらに面白いのです。第1話の唐揚げにレモンかけることで言い合いになるシーンは、その言い合いだけではなんてしょーもない争いをしているんだと笑えますが、それが後半では、真紀の話で幹生が失踪するきっかけになったことが分かります。なんでもない日常会話に見せかけて、とても重要な伏線になっているのは驚きました。でも、たまに本当にこれ意味あるのかなと思うような会話もあって、でもそれもリアリティを演出するのに役立っているように思えました。そもそも四人の会話や行動はどれもとてもリアリティがありました。四人の境遇やカルテット結成のいきさつ、彼らを取り巻く環境、その彼らが一緒に音楽やって一緒に暮らして強い絆で結ばれていく様子は、どう考えても非現実的だと思いますが、その中に生きる彼らの行動や会話はとても自然で、ファンタジックだけどもしかしたら自分の身にも起こり得る出来事なのかもしれないと思わされました。

 真紀の事件のサスペンス要素、四人の恋愛模様が、この物語のテーマとして大々的に売り出されていましたが、音楽をしている彼らの生き方もひとつ大きなテーマだなと感じました。第1話の真紀の台詞にもあるように、三十代の彼らにとって、仕事にできなかった音楽を趣味にするのか、まだ夢にするのかの選択はとても重要です。結局、彼らはまだ夢にして、第5話でそれを踏みにじられることになりますが、最終話では、家森が「音楽を趣味にするタイミングが向こうから来たんです」と話します。キリギリスだった彼らは最終的に蟻になれた。とても現実的な問題で、この点は、自分の夢についても少し考えさせられました。

 それから随所に挟まれるカルテットの演奏が素晴らしかったですね。冒頭、すずめが演奏するカサドの『無伴奏チェロのための組曲』は、物語の本当に初めのシーンですが、この物語の世界観に一気に引き込んでくれました。スメタナの『モルダウ』は切ないながらも激しくかっこよく、とても好きな一曲です。また、演奏曲以外のBGMなども素敵な音楽がたくさんありました。

 音楽と言えば、エンディングの『おとなの掟』は曲も映像も素晴らしかったです。椎名林檎さんの作られた曲ということでそりゃもうお洒落なわけですが、物語の世界観にまさしく合致。それをDoughnut Holeの四人で歌っているから、ドラマの世界と本当に一体化しているようでした。でも映像は、女優二人(松さん、満島さん)と監督(松田さん)、カメラマン(高橋さん)という設定でリップシンクシーンもあるMVのようなかっこいい映像なので、物語とは一線を画していました。しかし、それも最終話では遠征するバンの中で四人が歌うシーンがあり、その境界はあいまいになって、まさに白黒つけないグレーなドラマの世界観と主題歌の世界観が混ざり合ったように感じました。

 細かいことを言えば、他にも素敵なところはたくさんあります。真紀と幹生のすれ違いもリアルだし、幹生のナヨナヨ感はこういう人いるなって思わせるし、有朱(吉岡里帆)は可愛いけど怖いし、第9話の大二郎(富澤たけし)の多可美(八木亜希子)への愛*1は凄く感動したし。家森のめんどくさい加減はだんだんツボにはまってくるし、別府の『紅』熱唱は普段真面目なのにギャップあるし、すずめは終始可愛いし、真紀の時々大胆な感じもギャップがあって面白い。どこをとっても面白くて最高です。シナリオ本も買ってあるのでまだまだ楽しめそうです。

 現在放送中の『anone』もついに最終回を迎えます。こちらもハラハラドキドキする展開と面白くも温かい会話劇に楽しませてもらっています。最終回、期待しています。

 

カルテット1

カルテット1

カルテット2

カルテット2

*1:有栖が自ら折ったヒールを大二郎に直してもらいながら、大二郎を誘惑するようにどんどん接近していくのですが、大二郎は「やめてくれる?ママのこと愛してるから」と一蹴、有栖敗北の瞬間でした。