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映画『羊の木』がなんとも言えない

 映画『羊の木』を鑑賞してきました。監督は吉田大八さん、主演は錦戸亮さん、原作は山下たつひこさんといがらしみきおさんの同名漫画。物語もとても興味深く、ずっと楽しみにしていました。


2.3公開『羊の木』Web用予告編

 

 犯罪者というレッテルを張ってはいけないと思う良心と、それでも反射的に彼らを拒絶してしまう恐怖心との狭間で揺れ動く主人公・月末一(錦戸亮)や魚深の住民たち。その一方で、犯罪者たちは、そうしたレッテルを張られることを恐れている人や、まったく気にしていない人など様々。更生しようとする人がいる一方で、何か企んでいるような様子の人がいる。そんな奇妙な登場人物らを見ていると、何か起きそうな予感がずっとしていて、でもなかなか起きない。起きないけど、地盤は終始グラグラと揺れているような感じで、いつ何が起きてもおかしくない不穏な空気が流れ続けていました。それなのに時々希望的に見えたり、ラストなんかまさにそれで、すっきりしたようなしないような。なんだかずっと気持ち悪い。でもそれが良くて面白かったです。

 面白いなと思ったのが、更生に前向きなように思える人はみんな殺人罪で逮捕された人たちなんですよね。福元(水澤紳吾)はずっとびくびくしているし、大野(田中泯)は堅気になって、太田(優香)は殺人者であっても恋がしたいと願う。その様子は根は悪くないのかなと思わせます。その一方で、傷害致死罪の杉山(北村一輝)は反省していない様子がダダ洩れしていています。一番何か起こしそうで、月末が港に上がった水死体を見たときに杉山を疑ったのにも頷けるような人。同じく傷害致死罪の宮腰(松田龍平)は一見6人の中で誰よりもまともで月末とも打ち解けた様子だったが、自ら罪状を月末に話したり、結局のところ更生しきれなかったり、もっとも奇妙で実は怖い人物。杉山も言っていたように、虫を殺すように人を殺す宮腰と、おそらく同じその種の人間である杉山は、傷害致死という殺人より軽い罪でありながら、最も危なくて恐ろしい。人の腹の底にある狂気みたいなものが、刑罰の重さとは比例しない様子が皮肉めいていますよね。

 殺人罪の栗本(市川実日子)に関しては、かなり謎でしたね。仕事は真面目にやっているが、ほとんど喋らない、几帳面すぎる、そして殺人を犯しておきながらも生き物の死骸を家で埋葬しているという、いかにも変わった人物。物語の主軸には一切かかわってこないが、タイトルにある羊の木が描かれたフタ(?)を拾ったり、羊の木の伝説を語ったりするなど、ある意味重要な人物。にしても謎でした。市川さんと言えば強気な役柄のイメージが強かったので、物静かな栗本はとても意外でした。

 田代(細田善彦)が、ちょっとうざかったです(笑)それだけ言いたかったです。余計なことばかりする人、こういう人いますよねってとても思いました。

 月末も含め、文(木村文乃)や、大野を受け入れたクリーニング屋の内藤(安藤玉恵)などの、犯罪者と知っての反応はごくごく普通の感情で、他人事には思えませんでした。犯罪者だと知った驚きや恐怖心、それに対抗して良心もどこかにあって、罪を償ってきた人たちを差別してはいけないと思う複雑な気持ち。でも怖いですよね。その純粋な人間の心が一番残酷だと思いました。

 内藤は、一度は大野を突き放したものの、結局は受け入れました。一方で、文や月末に受け入れられなかった宮腰。その境遇が違えば宮腰も再び殺人なんか犯すこともなかったんでしょうか。宮腰が岬へ向かい、2人で海に飛び込もうと言ったのは月末に裏切られたからで、月末の心も常に揺れていて、宮腰を受け入れようと努力している様子は痛いほど分かるのです。それはきっと宮腰も分かっていて、でも完全には受け入れきれない月末と宮腰自身も変われないことを理解して宮腰は諦めてしまった。しかし、この最後の最後で宮腰が月末を殺せなかったのは、ひとつ希望的でした。宮腰は変われた。それなのに海に飛び込んだ宮腰と連れられた月末。のろろに託された運命。そして一度は水面から顔を上げた宮腰に、観客全員が息をのんだと思います。でもその後、錆び付いた銅像ののろろが海へ落ちていく様子には、さらに驚きました。運命は皮肉ですね。あのまま、月末が沈んだままでは絶対にひどい運命だと思っただろうが、のろろによって沈められた、変わりかけた宮腰を思うと、それはそれで悲劇だったようにも思えます。希望と呼べるのかどうか、確かに難しいラストシーンでした。

 本当に、結局のところよく分かりません。これぞ映画の醍醐味なのでしょうが、本当にすっきりしません。松田さん本当に怖かったし。宮腰が杉山を車ではねるシーン。真顔で無関係な人に車突っ込んで、杉山2回もはねて、その上バックで轢きにいくって怖すぎる。でも面白かったのは確かです。久しぶりにこの手の映画を観たので、とても興奮しました。すっきり解決しなくてもいい。それも含めて楽しめました。いい映画でした。