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『チュベローズで待ってる』は最高のエンターテイメント

 好きなことを書いていく当ブログ。私の好きなことの中で「読書」は割と高いウエイトを占めているにもかかわらず、なかなか語る機会がありませんでした。加藤シゲアキさんの新刊『チュベローズで待ってる』が発売となり迷わず2巻同時に購入したこの機会に本についても少し語っていこうかなと思います。

チュベローズで待ってる AGE22

チュベローズで待ってる AGE22

チュベローズで待ってる AGE32

チュベローズで待ってる AGE32

 

 AGE22、AGE32という名で2巻に分かれているこの『チュベローズで待ってる』。どちらも一気に読破しました。週刊SPAでの連載時には読んでいなかったのでAGE22から衝撃の連発で一瞬にしてこの世界の虜になり、その勢いのままにAGE32に突入。テイストをがらりと変えつつ、伏線回収や謎の解明は見事なもので、こちらも衝撃を何度も受けながら楽しませてもらいました。

 週刊SPAにて連載されていたAGE22は、加藤さんもおっしゃる通り、とにかく展開が速い。そもそも就活に失敗して浪人した大学生がホストになる展開がまずぶっ飛んでいます。非現実的な設定に、非現実的な出来事がスピーディーに次々と起こる、これはまさにエンターテイメントでした。

 様々な事件が起きる中で生まれる謎は、基本はその都度解明されていき、ある意味AGE22だけでも十分に楽しめる物語だと思いました。しかし、最後の最後に驚きの展開。超消化不良感満載のままに終わるAGE22は連載時に読んでいれば、本当に長い長い春*1が待ちきれなかったことでしょう。

 最後の大きな謎を連れて始まったAGE32は、10年の時を経て時代も変われば、長い春を過ごして雰囲気も一変していました。就職した主人公の性格も多少変わりましたね。ホストしてただろと突っ込みたくなる、主人公の最初のセリフからもそれは伺えます。

 雰囲気が変わったとはいえ、エンターテイメント性は健在で、大きな謎を謎にしたまま、新たに様々な出来事が起きる怒涛の展開は読者をまったく飽きさせません。その中で、AGE22に残されていた伏線も少しずつ回収しながら、10年前のことの真相が明るみになったかと思えば、再び事件が発生。現実離れした物語の展開に興奮が止みませんでした。

 これだけエンターテイメント性を前面に押し出しておきながら、その中心には処女作『ピンクとグレー』から一貫された加藤シゲアキらしさも健在しています。特にAGE32の後半。の、最終章。AGE22に残された本当に最大の謎が解明した場面。本人にしか分かり得ない本当の理由が明かされたあの場面を読むと、ただのエンターテイメントだとは思えなくなりました。加藤シゲアキにしてやられました。

 少し意外だったのは、本当に最後の最後のシーン。最終ページの数行。物語としての謎というか余白というか含みというか、そういうモヤモヤしたものには、最後ほんの少しだけ光が差しますが、それとは全く別で、考えたくなるラストでした。私は妹かなと思いますが、読み終えられた皆さんはいかがですか?

 長い長い春を私は感じていませんが、前作『傘を持たない蟻たちは』からするとおよそ2年半待った加藤さんの新作。最高でした。加藤さんらしさを維持しながら確実に進化を遂げている今作。ミステリー要素満載、それでいて感動して読み終えた最高のエンターテイメント作品でした。

*1:連載が2016年6月から11月、その後「来春単行本発売」と発表されたものの実際に発売されたのは季節を一周した2017年12月冬。春長かった