それを嫌いになれないから

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『ニンゲン御破算』観劇

 15日に大千秋楽を迎えられた『ニンゲン御破算』。作・演出の松尾スズキさんはじめ、出演者の皆さん、スタッフの皆さんお疲れさまでした。私も2018年7月11日大阪で『ニンゲン御破算』夜公演を観劇いたしました。

 大人計画の舞台(と呼んで良いかはさて置いて)は初めて観劇しましたが、本当に面白かったです。Bunkamuraのプロデュースであったり、エンターテイメントと銘打ってあったり、時代劇であったりと、普段の大人計画や松尾さんとは少し違うということは重々承知ですが、それを踏まえてもというか、だからこそというか、とても楽しませていただきました。15年前に中村勘三郎(当時は勘九郎)さん主演で初演されたこの偉大な作品を、再演という形で今見られたことは本当に良かったなと思いました。

 以下、作品の感想やら初めて生で触れた大人計画に対する感動やら、思ったことすべて書き連ねますが、どうにもブログという体裁に上手くまとめられないような気がするので、ほとんど個人的な備忘録です。大千秋楽も迎えられたということで内容についても触れていますがご容赦ください。

 

『ニンゲン御破算』公演概要

2018年6月7日~7月1日 Bunkamuraシアターコクーン(東京)

2018年7月5日~15日 森ノ宮ピロティホール(大阪)

作・演出:松尾スズキ

出演:阿部サダヲ 岡田将生 多部未華子 / 荒川良々 皆川猿時 小松和重 村杉蝉之介 平岩紙 / 顔田顔彦 少路勇介 田村たがめ 町田水城 山口航太 川上友里 片岡正二郎 家納ジュンコ / 菅原永二 ノゾエ征爾 平田敦子 / 松尾スズキ

 

 

 観終わった一番の感想は「楽しかった」それに尽きます。まさにエンターテイメント。生演奏に痺れ、歌にダンスととても華やか。劇中に何度か流れる『Secret Agent Man』に驚きましたが、アレンジかっこよかったなあ。あの曲もう一度聴きたいです。メインテーマらしき曲とラストの曲もかっこよかったです。サントラとか出してほしい。笑いの要素もふんだんに盛り込まれ、終始笑っていたように思います。しかし、物語は時代劇というだけあって幕末の佐幕だの攘夷だのとお堅いところもありつつ、複雑に絡み合うそれぞれの物語が最後には収束して感動の幕引き。本当に凄かったです。

 主演の阿部サダヲさんは凄い。ほぼ出ずっぱり。物語を語る自分とその物語の中の自分とをいったりきたりしながら、ボケてはツッコんで、殺陣もあり歌舞伎もあり、ずっと騒いでる感じなのにふっと影が落ちる。そこがこの作品がただのエンターテイメントではないというか。細かい言葉や動きも実はちゃん伏線になっているのにも感動。母姉らに「寸足らず」と馬鹿にされ「小さいわけがあります」と返す実之助に、観客は演じている阿部さんを思って笑っていたのに、思い返せばおっさん呼び嫌いも高い叫び声も、すべて実之助が女だというしっかりした伏線。灰次とのハグは、あれも伏線…? 灰次を演じる岡田さんの背が高すぎて実之助が階段に上って抱きしめるもんだから、客席には実之助の顔ばかりずっと…ちょっと可愛いかったです。でも「空っぽだ」と叫ぶ場面とお吉に最後の願いを託す場面(揉んでくれは除く(笑) 面白かったですけど)は圧巻で素晴らしかったです。

 岡田将生さんはかっこよかったですね。かっこいいのに灰次はハチャメチャなことばかりするから一々面白いのも(登場の傘に乗った素敵な小鳥とか白ブリーフとか)イケメンの無駄遣いって感じでよかったです。でももちろんそれだけではない...かったはずなのですが、如何せん面白かったところばかりが記憶に残ってるもので…。客席から登場することが皆さんありましたが、岡田さんは特に多かったように思いました。通路でしばらく芝居してることも多くて楽しかったなあ。ラストの女形は綺麗でこれまた驚きました。美しかったです。

 綺麗と言えば女性陣は皆さんお綺麗でした。多部未華子さんもお綺麗でしたが、ずっと可愛いなあと思って見ていました。でもお吉の身の上は考えてるとどんどん切なくなります。平岩紙さんも家納ジュンコさんもお綺麗なのにキャラがぶっとんでいるもんだから凄い。特にお福は包丁が出てくる出てくる、頭かなりおかしいですし、さすが平岩さんだと思いました。平田敦子さんは凄いというか圧巻というか、隠し玉大好きです。田村たがめさんも綺麗、というかむしろ可愛らしい。花魁とか特に。でも冒頭のイマの練炭自殺には大笑いしました。飯盛り女は皆川猿時さんとの絡みで嬉しかったです。「飲めるように食える」「江戸時代とは思えない太り方だ」って最後の決めポーズ(?)までもう微笑ましくて。個人的には大満足でした。

 そんな皆川さんはさすが終始面白かったですね。ひたすら「木の実ぃ~」投げる猿とか桃太郎みたいな恰好の仇討とか。後半太鼓持ちになった田辺は歌もあって。足軽の時は真ん中のプールにざぶんと何度も潜って体張って大変そうでしたが、この瞬間移動と大量の汗はめちゃくちゃ面白かったです。水に落ちるのが思ったより少なく感じたのですが、再演にあたっていろいろと変わったのですかね。でも、この皆川さんを見られたら十分というか大いに水活用といった感じで、凄かったです。

 荒川良々さんも面白かったなあ。唇歪んでるのとかいちいち面白い。旗が生きてるとかなんとか言って絡まってたのは、あれはアドリブだったのかな。岡田さんだけでなく阿部さんまで笑ってたのが面白かったですね。

 村杉蝉之介さんは役多数で出てきては死んでの繰り返し。しかし死ぬ前に「来世は○○になりたい」と叫んでちゃんとその役で出てくるという見事な連鎖。特に最後のヒュースケンは面白かったです。自転車で階段降りてくるところから驚きました。階段の最後の段からステージの一番前までの幅があまりないのでヒヤヒヤしましたが、見事にキュッと止まるのにまた驚き。そして片言の日本語が面白かった。村杉さんご自身はパンフレットで「宮崎吐夢さんの外国人役には適わない」と仰っていましたが、私は村杉さんの外国人役大好きです(『まとまったお金の唄』とか)。関殿も燃えてただけで一瞬でしたが面白かったです。

 小松和重さんが思いがけず良かったです。『おんな城主 直虎』での昊天さんで結構気になっていたのですが完全に好きになりました。昊天さんの真面目なイメージがあったのでロバだの滑舌が甘いだの弄られているのが新鮮でした。それを弄ってるのが家康を演じていた阿部さんっていうのがなんだかいい物を見られた気がして嬉しかったです。(比較対象がいちいち直虎ですが)昊天さんは僧侶だったので武士の姿の小松さんがとてもかっこよかったです。それで土うめえと地面にかじりついているのも面白かったです。サモアリ観てみたい。

 仇討ち隊で言えば菅原永二さんと少路勇介さんも良かったです。ひとりだけ年老いてる菅原さんが面白かったです。歌お上手で驚きました。少路さんは「言っちゃあいかんことだった」ってなんだか可愛いかたったです。仇討ち隊で「ええじゃないか」と歌い踊るのも好きでした。あと桜田門の野外公演も。そういえば取った首を転がしているときに一度舞台上から客席側に落ちましたが、あれ目の前に転がってきたら結構ビビるでしょうね。

 南北の松尾スズキさんと黙阿弥のノゾエ征爾さんも面白かったなあ。ノゾエさんは土方も「後に新選組を作る予感に満ち満ちている」って面白かったです。松尾さんはさすが。南北の襟に対するこだわり(キラキラ笑顔の黒子って誰だったんですか?見逃してしまって気になるなあ)とか、小判にすぐつられる感じとか、近藤の半裸とか。松尾さんが書いてること内容も絶対面白いのですが、それを松尾さんが演じると面白さ倍増というか、松尾さんならではの間というかなんというか、ほんと面白かったです。実之助が物語を話している間、舞台の端っこに何かしらの形でいる二人も面白い。二人でラーメン食べてたのは本当のガスコンロですか?木を持たされたり波を打たされたり。波打ったまま幕間解説は親切でありがたかったのと同時に、お二人のフリートークっぽい感じが楽しかったです。おさらいしつつ「包丁また出てくるんですかね」「切られた人とそっくりな人たちが仇討ちに出てくるんでしょうね」などと先取りしてもはやネタバレのようなことを言うノゾエさんが面白かったです。休憩に入ると見せかけて幕が上がり、その後本当に休憩の入る幕間をアナウンスにも「今度こそ」などと言わせるところが遊び心がありますね。

 笑えたところばかり書きましたが、話ももちろん面白かったです。時代劇ということで、実際の史実と重ねながらもこの突飛な物語がしっかりと生きている。現実とフィクション、さらには幻想といろんな世界を行ったり来たりしながら、非現実的な術や設定まであって、でもその中に幕末の侍らの意思(は割とブレブレだけど)やそれを疑問視するお吉や実之助の思いが描かれていて、それがあって最後の明治になってからのこけら落としのシーンは素晴らしいエンディングでした。

 カーテンコールは三回ほど出てきてくださいましたかね。パンフレットと戯曲まで買ってしまって、未だ余韻に浸りながら読んでいますが、冒頭に「岩松と三谷が撃たれました」ってそんな面白い台詞があったのか。完全に聞き逃していたことを後悔しています。できることならもう一度観たいとついつい思ってしまいますが、一度観劇できただけでも本当に良かったです。本当に面白かったです。

渋谷すばるの最後のテレビ出演

 7月に入ってレギュラー番組をはじめいたるところで「渋谷すばる最後の出演」などという謳い文句を見かけるようになりました。「ようになりました」というか、先日8日の『関ジャム完全燃SHOW』を持って最後のテレビ出演が終わりました。静かに見届けようかなとも思っていたのですが、やっぱり思ったことを残しておきたくてここに書きます。

 

6月30日(土)『関ジャニ∞渋谷すばるのスバラジ』(NACK5

 最終回と言いつつ、懐かしい音源も流しつつ、普段とあまり変わらないノリがやはりスバラジらしくて良かったです。亀高Pからのお手紙もあって笑いの絶えない、“とりあえず”最終回楽しかった。“とりあえず”と連呼する所にスタッフの愛を感じました。

 なんとなくね、ラジオだけなら近いうちに復活するじゃないかという予感がします。名前が変わったとしても同じスタッフで馬鹿みたいな番組をやってる未来が来るんじゃないかと。またいつかラジオで会える日を願っています。

 

7月2日(月)『ペコジャニ∞』(TBS)

 ちょっといい雰囲気に持っていきましたね。横山裕さんと村上信五さんの年上3人との思い出話。この3人に限定したところが面白くもあり、ちょっと寂しかったりもしました。

 

7月4日(水)『関ジャニ∞のジャニ勉』(関西テレビ)

 渋谷さんを言い訳にちゃっかり番組自体を振り返るという構成が重くなくてよかったです。本当に長い間やってるんだなと感じる一方、その半分以上を知っていた自分のファン歴にも驚きました。関ジャニ∞を応援し始めたときからすでに長い歴史を持っていたジャニ勉だったのでずっと新規の心づもりで見ていたら、1時間に拡大したのももう8年前なのですね。渋谷さんだけでなくメンバー全員の名場面も振り返って懐かしい映像もたくさん見られて楽しかったです。吹きさらしロープウェイとか。

 EDはしんみりといい感じに終わるかと思いきやそうはいかないのがジャニ勉らしい、関テレらしい粋な計らいでした。やっぱり笑顔が1番いいですよ。

 

7月6日(金)『ミュージックステーション』(テレビ朝日)

 レギュラー番組ではないけどデビュー前から何度も出演している番組なので。安田さんの諸々の発表があった後の生放送だったのでそっちも心配でしたが、みんな楽しそうな『がむしゃら行進曲』を見て安心しました。紙吹雪口に入っちゃった村上さんとか。Jr時代のMステ初出演映像まで流れてさすがテレ朝。

 トップバッターとトリという演出もありがたかったですね。『NOROSHI』はバンドとして音楽的に成長した関ジャニ∞の1つの節目というか2016年までの集大成という感じをずっと持っていたのでいい選曲だったなと思いました。かっこよかったです。

 

7月7日(土)『関ジャニ∞クロニクル』(フジテレビ)

 いきなりドッジも今思えば最初はメンバーだけで始まりましたね。それからゲストが来るようになって、ゲストが来ても関ジャニ∞のワチャワチャ感はそのままに楽しいコーナーでしたが、それを再びメンバー7人だけで。渋谷さん最後だからということを匂わせつつもいつも通りのハチャメチャな関ジャニ∞を見せてくれました。

 かと思いきや後半は泣かせる演出。ピンマイクで歌う『Heavenly Psycho』の生歌。温かい空気に包まれた優しい空間で楽しげに歌う彼らが素敵で、その後のEDナレーションにもグッと来てしまいました。クロニクルは始まってまだ3年ほどで、これ以前はフジテレビでのレギュラー番組はなかったにも関わらず、開始当初から関ジャニ∞の面白さをどの番組よりも引き出してくれて、ファンのツボもしっかり抑えてきました。だからこそ、番組からの関ジャニ∞への愛みたいなものが感じられて、素晴らしい回でした。しいて不満を言うならば全国放送してくれ。

 

7月8日(日)『関ジャム完全燃SHOW』(テレビ朝日)

 生放送という形態にしたのはちょっと受け入れ難かったですが、内容は良かったです。これまでのセッションを色々と振り返れたのは懐かしさもあって楽しかったですし、生放送なのに錦戸亮さんがいっぱい喋っていたのが嬉しくもあり、珍しすぎて逆に心配になったり。待ちに待った東京スカパラダイスオーケストラとのセッション『無責任ヒーロー』も見れて大満足。さすがの人数で圧巻のパフォーマンス。何よりみんな楽しそうに演奏している姿が印象的でした。関ジャニ∞7人とスカパラとのコラボが見れたことが実は一番嬉しかったです。

 とは言いつつも、関ジャニ∞7人のセッションも最高でした。いや最高かどうかは分からない。分からないけど良いものであったことは確かです。『大阪ロマネスク』はテレビで披露したことなかったのかと驚いたほどファンとしては馴染み深い曲で、でも確かにこれは他の歌番組では絶対に聴けない、関ジャムだからこそ歌えたと思うので聴けて良かったと思いました。

 『LIFE〜目の前の向こうへ〜』に関しては番組の作り方がそういう雰囲気だったってのもありますけど、なんとも言えない感情になりました。渋谷さんの事務所退所をファンクラブ会員向けに発表された時も、会見を見た時も、ラジオで彼の思いを聴いた時も私は、悲しいとか寂しいとかなんでっていう不満とかはいろいろありましたが、3ヶ月間泣くことはありませんでした。前日の『オールナイトニッポンサタデースペシャル大倉くんと高橋くん』(ニッポン放送)で大倉忠義さんが「泣いてない。前を向いてる」と仰っていて、その通りだ、私も同じ気持ちだと、なんだか変なことを思っていました。演奏が始まってからも発売当初より歌も演奏も格段に良くなってるよな、楽器も違うな、渋谷さん前はフラV使ってたよな、錦戸さんはストラトだったよな、なんて呑気なことを思っていました。

 そうしたらAメロを後ろでハモっていた錦戸さんが突然歌うのをやめてしまって、その顔を見たら…、その姿はさすがにこたえました。私が今までこの一連の出来事の中で一度も流さなかった涙が出てきました。前日に「こんなこと言って明日泣いてたらごめん」と言っていた大倉さんは逆に気持ちいいくらい笑顔でドラムを叩いていて落ちサビのソロも優しい笑顔で渋谷さんを指しながら歌っていて、それが救いでもありつつ見たらまた泣けて。渋谷さんも楽しそうに歌ってらして、最後には「eighter」と叫んでくれて。もうあの演奏がすべてというか、時間ないなら中途半端にコメントするよりもあの演奏でバスッと終わっても良かったくらい、あれだけで事足りました。でもEDはメンバー7人全員の笑顔で締めくくられて良い姿を見せてもらったなと思いました。

 

 あぁ、なんか、番組によって熱量が全然違いますね。局によっては前番組の時から長く関わっているところもあったり、番組から関ジャニ∞への愛が感じられたりして、そうしたら視聴者としてファンとして感じることにも差が出てきますよね。まあ、書いたことがすべてではないのですが、とりあえず言語化して自分の気持ちの整理を付けたかったのです。そういう自己満です。

 さて、そうこうしているうちに関ジャニ∞のツアーも始まります。ここからは6人での活動のスタートです。まずは良いツアー初日を迎えられることを祈っております。

 関ジャニ∞渋谷すばるさん 、16年間ありがとうございました。

 

舞台『マクガワン・トリロジー』観劇

 昨日7月4日に兵庫県西宮で『マクガワン・トリロジー』夜公演を観劇いたしました。 噂に凄いと聞いておりましたが、本当に凄かった。良い物を観せていただきました。とりあえず、この感動が新鮮なうちに感想を書き留めておこうと思います。まだまだ始まったばかりの公演ですがネタバレも多く含む感想となります。ご了承ください。

『マクガワン・トリロジー』公演概要

2018年6月29日~7月1日 穂の国とよはし芸術劇場PLAT主ホール(愛知)

2018年7月4日~8日 兵庫県立芸術文化センター阪急中ホール(兵庫)

2018年7月13日~29日 世田谷パブリックシアター(東京)

原作:シーマス・スキャンロン

翻訳:渡辺千鶴

演出:小川絵梨子

出演:松坂桃李 / 浜中文一 趣里 / 小柳心 谷田歩 / 高橋惠子

 

  

 物語の舞台はアイルランドIRAのメンバーである主人公のヴィクター・M・マクガワン(松坂)の3年間をタイトル通り三部作で描いた物語です。関連する話もありますが、基本的にはそれぞれが独立した物語として存在しています。

 難しい話だと噂には聞いていたのですが、最も恐れていたことが起きました。話についていけない。出演者ですら稽古前に勉強会が行われたらしいのですから難しいのは分かりきったことでした。そもそも外国の翻訳劇である上に舞台となる地もまた外国。アイルランドIRAについては調べておいたほうがいいとか、パンフレットを読んでおいたほうがいいとか、すべて実行して挑んだのですがやっぱり無理でした。もうこうなったら仕方ありません。パンフレットで谷田さんもおっしゃっていましたが、話が分からなくても何か凄いと感じるのも舞台の楽しみ方の一つ。話は分かるところだけで理解して、あとはこの舞台の空気感を楽しもうと思いました。

 第一部は特に登場人物が多くて難しい言葉もたくさんあるので話についていくのも難しかったですが、とても見応えがありました。バーテンダー(浜中)とアハーン(小柳)がいるだけの静かな冒頭の店内が、ヴィクターが来てから一気に空気がぶち壊される感じはゾクゾクしました。楽観しているアハーンと恐怖で怯えるバーテンダーは対照的で、そこに現れるヴィクターは誰よりも狂っていてテンションが高い。ずっと歌って叫んで踊って騒いでいるヴィクターは凄かったです。

 ペンダー(谷田)が来て次第にヴィクターが来た目的が明らかになっていき、アハーンが追い詰められていく過程は圧巻でした。ヴィクターの狂気じみた様子がここぞとばかりに披露されます。銃声の大きさに驚き、撃たれた箇所が血で赤く染まっていることにどうなってるのだろうと謎に興奮しました。逃げ惑うアハーンや慌てているペンダー、ずっと震えてるバーテンダー、そして1人狂っているヴィクター。アハーンは本当に裏切っていたのかペンダーはどっちの味方なのかはっきりとは分かりませんでしたが、それぞれがそれぞれの想いを抱えて行動しているので物語にも深みが出てとても面白かったです。

 浜中さんはどんな役どころだろうと楽しみにしていましたが、想像以上にいい役でした。名前の並びが2番手だったのであらすじを読む限りアハーンかなと想像していたら、パンフレットでバーテンダーと知って少し不思議に思っていたのですが、バーテンダー凄かったです。1人IRAのメンバーではないので基本的に蚊帳の外なのですが、物語の端っこでずっとヴィクターに怯えながら動いてるんですよね。芯には関わってこないけど存在しているというリアリティ。時々やらかしてヴィクターに怒鳴られてはまた怯えての繰り返し。アハーンが裏切ったと疑われ撃たれるシーンはスピード感もあるし登場人物の感情の高ぶりもピークを迎える迫力あって盛り上がるシーンですが、そこでも彼は隅で隠れていたりただ震えていたりするんですよね。でもそれがリアルな反応ですし、観客としても終始バーテンダーと同じようにヴィクターの行動にいちいち怯えていました。

 そうやってずっと物語に関わってこなかったバーテンダーが最後の最後、ペンダーがヴィクターに撃たれたことでヴィクターに銃口を向けるという行動に出ます。ここが一番痺れました。結局撃つ勇気は彼にはありませんでしたが、叔父が撃たれて黙ってはいられない何かしてやりたいという人間らしい純粋な気持ちは切なかったです。ヴィクターがバーテンダー銃口を向けたところで暗転しましたが、バーテンダーも殺されてしまったのでしょうね。ヴィクターの殺人マシーンらしさが前面に出たお話でした。

 第二部はヴィクターと女(趣里)の話。ヴィクターが幼馴染であるその女を殺すためにやってきた湖畔のほとりで2人が昔話をするという完全なる二人芝居。夜ということで照明も薄暗く、一部がド派手にやっていた分、とても静かな時間が続きました。でも話は全く穏やかではない。女が殺される理由も殺されるような理由ではないし、ヴィクターが女に思いを寄せていたのに殺さなければいけないという葛藤。とても切ない胸が痛くなるような話でした。一部ではあれほど躊躇なく3人殺しておきながら、女を殺すことには躊躇い殺してからは涙を流すという、ヴィクターのただの殺人マシーンではない、人間らしさを見せられました。

 第三部はまたさらに静かに物語が進んでいきました。認知症の母親のあっちこっちする話の中に、ヴィクターの昔の様子から今に至るまでの理由などが垣間見えるという構造。ただこの辺りから頭の中の整理が追いつかなくなりました。聞いたことある単語だけどどこで出てきた単語だっけ、みたいなことが何度もあって、私の頭の中で話が完全に繋がることはなかったのですが、それでも二部から続くヴィクターの人間らしさというものがさらに見えた気がしました。結局は彼も人間なんだなと思うと、それでも人を殺していく彼が哀しくなりました。

 二部三部は、登場人物も物語も複雑でヴィクターのテンションも最高潮だった一部の盛り上がりに比べれば、静かで淡々としていてとても美しい世界でした。二部の薄明りの中話す男女という光景や、三部の窓から差し込む月明かりと風になびくカーテンはとても綺麗でした。それから音楽。全体通して物語は決して明るくはないのに、劇中や幕間に流れる音楽はテンポ感もあって明るいとまでは言わずとも、どんよりと重たい音楽やしっとりとした音楽ではなく軽やかな音楽が多いのが印象的でした。70~80年代のパンクロックやポップスを中心とした選曲らしく、だからこそ一部はヴィクターの狂気のダンスが観られたわけですが、とても不思議な感覚でした。

 カーテンコールは出演者全員が並んでお辞儀をするだけというシンプルなものでした。多くの出演者は笑顔も見せて優しい表情をしてらっしゃいましたが、松坂さんは比較的笑顔が少なかったように思いましたね。物語は重たく暗い作品でもカーテンコールは晴れやかなものをよく観てきたので少し寂しさもありましたが、ひとり出ずっぱりであれだけの役を演じられていたので無理もないかなと思いました。浜中さんは凄い笑顔で嬉しかったです。

 そういえば、マイクあったのでしょうか。とても声がリアルに聴こえていたように思いました。キャパ800人ほどでコンパクトな会場でしたし、個人でマイクは付けていなかったように思ったのですが、舞台上にはあったのかな。

 話を追いかけられなかったのは悔いが残りますが、よい芝居を観ることができました。もう一度観ることはおそらく無理なので、せめて原作本を読むかなんとかして振り返られればなと思います。