それを嫌いになれないから

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高橋優『ストローマン』が最高

 高橋優さんの2年ぶりとなる最新アルバム『STARTING OVER』が絶賛発売中です。シングル6曲に新曲10曲を収録した今作は、2年間温めたことあって、どの曲も素晴らしいものばかり。そんな中でも、特に『ストローマン』がもう素晴らしくて、大好きで、いてもたってもいられなくなって、今このブログを書いています。

 何がそんなに好きなのか。歌詞が好きか曲が好きかなんてよく言われますが、私は明らかに曲です。そして、その多くは雰囲気です。雰囲気がまず好きなのです。歌詞やメロディーや楽器なんかについて触れればかっこいいものですが、雰囲気も馬鹿にできません。私にとっては最重要項目です。もちろん雰囲気も適当なものではなくて、例えばキーの高さだったり、楽器の組み合わせ方だったり、メロディーラインの動きや歌声、すべてが重なり合って生まれる、その曲がまとった雰囲気。その雰囲気が『ストローマン』は最高だったのです。聞いた瞬間にビビっときました。これだって思いました。得も言われぬ感情が私の中を渦巻いて、もうどうしようもなく好きです。

 この好きな雰囲気というやつは上手く言葉に表せないから厄介なのですが、それでもなんとか言葉にするなら、まずマイナーキー。これは外せません。この暗くて不穏な空気。短調の持つこの不安定さが大好きです。基本的にマイナーキーのかっこいい曲は、アーティストに限らず好きになることが多くて、優さんの曲でも、こういったタイプの曲が好きなことが多いです。

 しかし、ただ暗いだけではありません。イントロのアコギの響き、そこからAメロまで、アコギとベースとドラムの最小限のリズムは、暗いながらもどこかポップというか、リズミカルで軽妙。そこに加わる優さんの歌声もまた、どこか軽さがある。「暑くて」といきなりカーンと突き抜ける高音から始まり、半音階で一気に急降下するAメロ。その急降下した先の「コンビニで冷コーでも買おうかと」は重く響き渡る低音で、近くを半音で行ったり来たりするメロディーライン。そして再び高音に戻り、また低音へ急降下。その激しい高低差と軽快なリズムは、楽しさとまではいかなくても、重苦しい印象は与えないはずです。ところが、メロディーラインの抑揚とは別に、優さんの歌声はまるでロボットのように抑揚がない。おまけに半音階で容赦なく下降していくメロディーはどこか不気味に聞こえます。極めつけは、その歌詞です。「僕の居場所はこの世にない」なんて、何をどう拡大解釈しても悲観的でしかない。こうした要素が絡み合って生み出された、この奇妙は曲の雰囲気に、私は一気に心掴まれたのです。

 曲はBメロに入るとまた新たな展開を始め、ここでも私の心は鷲掴みにされます。まずコーラス(声っぽいけどもしかしてシンセ?)が入るという大きな変化。しかもこれが全音符で動くので、Aメロまでの軽快な様子はここで完全に消え、切なさを感じさせます。これも好きなポイントの一つ。しかしこのコーラスがまた無機質なんです。メロディーもAメロの最後で低音に収まったまま相変わらず低めの音であまり跳躍することなく淡々と動くので、なんとも無機質。気持ち悪い半音がない代わりに、裏拍で急に音が上がることで、不気味な雰囲気も継続。Bメロに後半に少し高音でハモリが入るのも切なさを演出する良いアクセントで、この不穏感と切なさの調和がとても美しいです。

 この不穏感と切なさの調和は最後のサビ前のBメロ「74億分の1の確率で」の部分がもっとも顕著だと思います。他のBメロはAメロに比べて音の厚みが増すのですが、ここでは他の楽器の音が極端に減り、コーラスの代わりにピアノの音が大きく響きます。このピアノがコーラス以上に無機質でまた切なさも感じさせる響きを持ち合わせています。そこに重なる優さんの歌声は無機質なメロディーラインのおかげで機械的にも聞こえるのですが、時々寂しさが滲み出るのです。特に「片手で繋がり微笑む」のところ。それがこの曲最大の切なさであり、この悲しく切ない雰囲気が私にはたまりませんでした。

 そして、ついにサビでこれまでのすべて要素が重なり合い混ざり合います。楽器の音も増え厚みを増す中、シンセ(かな?)の高音で流れるような裏メロは切なさを感じさせます。メロディーは高音になりながらも、同じ音や近くの音が続く無機質なメロディーが不穏感を煽ります。しかし、それを歌う優さんの歌声は激しさを増し力強く響き渡り、これがどこか希望的に聞こえるから不思議なのです。明らかに暗い曲なのに、ほんの一筋だけ希望の光が差し込んだかのような救いがある。一見、不調和に見えるこれらの要素が上手く溶け合い調和して、その隙間に挿し込むほんの少しの明るさ。それさえも正反対の性質で矛盾しているかのように感じるこの不安定さ。これが、私がこの曲の大好きな雰囲気を、言葉にしにくいといいつつ何とか言い表せる限界です。伝わるかな。伝わってほしい。伝われ。

 サビも1~2番と3番とでは少し違って、最後のサビの最後もまた好きなんですよね。1~2番は「水分補給は足りてる?」「ねえ君はどうしてるの?」で、イントロと同じアコギのリフに繋がるので、初めの軽快だけど暗く奇妙な雰囲気にまた戻ります。この強引に雰囲気を一変させるのも好きなのですが、3番の「とりあえず何飲む?」はサビの雰囲気のまま、まだもう3小節待ってくれるのです。そしてその3小節の間に入るピアノの音が最高なのです。アコギのリフとは絶対に共存しちゃいけない。でもこの曲の雰囲気、特に切なさの演出には不可欠な存在ですし、また、この最後の3小節においては、このピアノの高音のメロディーがこの曲に最後の希望を残してくれる、気がするんですよ、私は。他の、3番のBメロのピアノとは確実に違う、明るさを秘めた音だと思うのです。それを最後に残して、「ねえ水分補給は足りてる?」でもとのアコギのリフに戻る。例えば、このアコギのリフがこの曲においての基本というか現実世界というか仮にそう見立てると、サビは理想。それこそ希望。現実に戻る前に最後にピアノの音が希望の光を感じさせてくれているように思えるのです。――妄想が過ぎました。すみません。

 それからもうひとつ妄想というか、思ったことを垂れ流すと、少しボカロっぽいなと感じました。ボーカロイド楽曲にそう詳しいわけではありませんが、声の無機質な感じや奇妙なメロディーラインはボカロの特徴だと思います。もっと具体的に言えば、3番のBメロの静かになる変化や、Aメロの2小節目やBメロの4小節目のメロディーなどを聴いた時に、どこかで聞いたことがあるような馴染み深い印象を受けたのです。考えた結果、曲の雰囲気や世界観がじん(自然の敵P)さんのカゲロウプロジェクトに似ているのかなと思ったのですが、ただ、どの曲なのかは特定できませんでした。『カゲロウディズ』のような気もするのですが、他にもあるような気もする......。まあ、とにかく、もともと好きな曲に雰囲気が似ていたというのは、これも私が『ストローマン』を好きになった理由なのかなと思います。

 さて、曲について長々と語りましたが、優さんの曲の魅力は歌詞にもあります。というかむしろ優さん自身は歌詞のほうに力を入れているのではないでしょうか、おそらく。曲に心惹かれつつも、耳に飛び込んでくる歌詞はとても刺激的で、これもまた私にはドストライクでした。

 「ストローマン」*1という単語をタイトルにしつつ、そこから派生して、ネット社会やSNSによる問題や今の人々の在り方がまざまざと描かれています。「壁に耳あり障子に目ありとかいうよりもはや全員がパラッチ」「壊れるところを見て血湧き肉躍る」「繋がりの残量があと3%しかないよ」など、内容はまさに的確で、それでいて刺激的だけど芸術的な言葉の選び方。この手の、社会派シンガーと呼ばれる所以みたいな曲は、デビュー曲『素晴らしき日常』や最近では昨年の『ルポルタージュ』などたくさんあって私も大好きですが、今回は少し違った印象でした。

 『素晴らしき日常』なんかは、様々に現実の問題を並べつつ、最後には優さんらしい明るいエールや希望が含まれていて、『ルポルタージュ』はじめ、そういった曲が多いと思うのですが、今回はただひたすらに問題を並べて、その現実を嘆くだけ嘆いて、それに対する希望がない。いや、無いのではありません。その希望の描き方がいつもと違うのです。優さんの言葉は常にどストレート。上記2曲もサビの最後には「世界は素晴らしい」と高らかに歌い上げます。でも『ストローマン』にはそれがない。では代わりに何があるかというと、自らを使った皮肉です。サビの「ミラクルな世界」「素晴らしき未来」などと明るいワードを次々に並べ、初めは優さんらしい希望を歌い上げているのかと思いきや、「とか歌ってた いけ好かない偽善者きどりを蹴飛ばせたらねえ」 と続き、雲行きが怪しくなります。最後のサビでは「いけ好かない偽善者きどり」が「いけ好かない眼鏡のケツ」に変わり、ここまで来ると優さん自らのことを言っているのではないかという想像は容易いと思います。そうやって自らを貶めながらも、本心としては素晴らしき世界を願って歌っているのだということもまた想像に容易いでしょう。新しい表現方法を取りながらも、その本質はゆるぎない優さんの歌詞は、やはり素晴らしいです。

 と、まあ偉そうに述べてきましたが、単純に好きなのです。歌詞も曲も暗くて、でもどこか希望があって、かっこよくて、そういう曲が大好きなのです。好きなものは無条件に好きなのです。その好きが『ストローマン』には存分に詰まっていました。もうかっこいい。とにかくかっこいい。『ストローマン』大好きです。

 そして、『ストローマン』のほかにも、素晴らしい曲はたくさんあります。『美しい鳥』はまさに美しい自然の情景が浮かび上がるような温かい曲。『若気の至り』は淡い恋心がとても可愛くて癒されます。『いいひと』は楽しい曲調に載せて結構刺激的なことも言っていますが、歌詞に描かれる "いいひとの僕" が曲そのものによって体現されているようで面白い。『aquarium』は『ストローマン』に匹敵するほど好きで本当は語りたいくらいです。好きの理由は右に同じって感じですが、サビで3拍子に変わるのが面白いです。*2『Harazie!!』これも語りたいです。まず歌詞カードを見て「お腹いっぱい」という意味の秋田弁「はらつえ」を欧州のどこかの国の言葉みたくしてるのがまず面白いし洒落ている。全編秋田弁というのも『泣ぐ子はいねえが』ぶり(?)で、おまけに標準語訳までご丁寧についてるからまた笑いました。いざ曲を聴けば珍しくファンク調でこれまた新しくて驚きました。ライブで盛り上がりそうです。『キャッチボール』は『BEAUTIFUL』*3を初めて聴いた時の感覚に近くて、真面目に聞いていると泣きそうになります。『leftover』はアドリブらしい*4トローンボーンが心地いいです。『非凡の花束』はサビのメロディーが『おかえり』に似ているなと感じたのですが、意図があるのかアンサーソングだったりするのか、気になります。『STARTING OVER』はラジオをテーマに明るく楽しい元気な曲で大好きです。その他、6曲のシングルも含めて、どの曲も最高です。

 このアルバムを引っ提げてのツアーも始まるので、『ストローマン』をギターをかき鳴らしながら歌い上げる優さんが観られると思うと、今からとても楽しみです。それまでにさらにこのアルバムを聴きこんでいきたいと思います。

 

STARTING OVER(通常盤)

STARTING OVER(通常盤)

 

 

*1:意見の一部だけを切り取り引用することで、引用元と異なる誤った意味で反論すること

*2:『高橋優のリアラジ』で、ご本人は拍子が変わっていることをよく分かっていないとおっしゃっていましたが、自然にできちゃうのも凄い気がします。

*3:前回のアルバム『来し方行く末』に収録

*4:『高橋優のリアラジ』にて、急遽お願いして一発で録ったらしい

新派特別公演『犬神家の一族』※盛大にネタバレあり

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 2018年11月10日、大阪松竹座にて、劇団新派の舞台『犬神家の一族』、大阪千秋楽を観劇しました。東京公演はこれからということですが、相変わらずネタバレ全開で、書き殴りの感想を語りたいと思います。

 

十一月新派特別公演『犬神家の一族

2018年11月1日~10日 大阪松竹座(大阪)

2018年11月14日~25日 新橋演舞場(東京)

原作:横溝正史

脚色・演出:齋藤雅文

出演:水谷八重子 波乃久里子 瀬戸摩純 河合雪之丞 / 浜中文一 春本由香河合宥季(交互出演) / 喜多村緑郎 田口守 佐藤B作 / 他

www.shochiku.co.jp


十一月新派特別公演『犬神家の一族』ダイジェスト映像

 

 劇団新派のことも、金田一耕助のことも、よく分からないままに観ていましたが、面白かったです。でも面白い以上に色んなことに終始凄いなと驚いていました。

 舞台は全体としてとても美しいと感じました。セットが細部までとても丁寧でリアルで、それでいて何度も何度も転換されるので、盆も回るし、襖や障子のセットも上から降りてくるし、お芝居が続いている後ろで同時に行われる転換も美しい。ここ最近観た舞台は、ワンシチュエーションや抽象セットが多かったので、とても新鮮でした。これが新派、というか伝統ある劇団というものなのでしょうか。知らんけど。

 女形も、おそらく "ならでは" ですよね。梅子役の河合雪之丞さんと、珠世役の河合宥季さん、お二人とも美しい。驚きました。そのうえで、台詞回しや所作で、梅子は嫌な女の感じが溢れていて、一方の珠世は健気で強か。しかも、珠世役はWキャストだったわけで、もうお一方は春本由香さんという女優さん。男性と女性でWキャストってそんなこともあるんですね。というか、実のところ私、河合宥季さんって名前見ただけだと女性だと思っていたんです。それにどちらが出演されるかも考えずにチケットを取ったので、今となっては河合宥季さんの女形を観ることができて良かったです。女性がやる珠世像はきっとまた随分と違うのでしょうね。今の私は、珠世は宥季さんでしか想像できなくなっています。本当に美しかったです。

 女形に限らず、キャストは皆さん素晴らしかったです。芝居については詳しくないので偉そうなことは言えませんが、特に松子波乃久理子)と宮川香琴水谷八重子)の貫禄と迫力には圧倒されました。竹子瀬戸摩純)も好きだったなあ。好きと言えば、佐武佐智も、ちょっと役者さんのお名前を存じ上げず申し訳ないのですが、お二方とも素敵だなと思って見ていました。誰か役者さんのお名前を教えて。あとは、警察署長佐藤B作さんがピンと張りつめた空気の中に時々笑いを入れて下さって、それがいいアクセントで面白かったです。

 さて、お目当ての浜中文一さんですが、なんかもう言葉を失うほどに凄かった。そもそも少ない語彙力がさらになくなります。佐清静馬の二役を見事に演じられていました。ストーリー上、二役とも顔を隠しているので、もうほとんど(主に一幕)お顔が見えないという、ジャニーズなのにそれでいいのって感じでしたが、それを含めて素晴らしかったです。

 一幕は本当にずっとマスクを被っているので「本当に佐清なのか」というよりむしろ「本当に浜中さんなのか」という疑念がずっとありました。声もマスクで籠っている上にドスの効いた太く低い声で今まで聞いたことのない声だったので、さらに疑念(浜中さんだと思って聞くと浜中さん)。静馬と思われる復員兵もずっと顔を隠しているし、でもこちらの声はいつもの浜中さん。問題はこの二人が時間をあまり置かずに頻繁に登場するということ。おまけに二幕にはこの二人が対峙するという重要なシーンもあって......。

 と、今、思い出しながら書いているのですが、あれ、もしかして、顔を隠しているときの復員兵はずっと浜中さんじゃなかったのかと思い始めた私がいます。そもそも顔さらした(浜中さんとはっきりわかる)状態で佐助も静馬も演じているのだから二役はちゃんと演じているはず。ということは、顔を隠した復員兵は別に中の人が違ってもおかしくはないのか。二人が対峙するシーンは別の人だろうし……このシーン、白いマスクを外すまで復員兵のほうが浜中さんだと信じ込んでいた私。でもマスク外したら浜中さんが出てきて思わず「えっ」と声が出てしまった......。でも復員兵の声が浜中さんだったように思うんだよなあ。逆にマスクの下の声は違うように感じたんだよなあ。逃げまどっている間に入れ替わったのかとも考えたけど、そんな余裕はなさそうだったし、じゃあ、声は?ってなるんですが、録音してたのか?それとも私の聞き間違い?チケット代ケチって2階席にするんじゃなかったと、ひどく後悔しております。双眼鏡で追ってる間にいろいろ見落としている気がする。ああ、誰か教えて。(※追記:いろいろと調べに調べた結果、やはり湖畔で二人が対峙するシーンは、前半は復員兵(ほんまの佐清)が浜中さんで、逃げまどって裏に回ったときに入れ替わって、後半はマスクの方(ほんまの静馬)が浜中さんになってだからマスクを外したら浜中さんが出てきた模様。お声も一部録音だったようで、自分の目と耳が正しかったことに安心したとともに、浜中さんのあまりにも素早い入れ替わりと見事な演じ分けに恐れ入りました。さらに、ほとんどお顔の見えない一幕も、ちゃんとマスクの方も復員兵の方も浜中さんが演じられているということで、疑って申し訳ありませんでした!まんまと騙されていました。本当に同じ顔の佐清と静馬でした。ああ、凄いわ。)

 中の人の事情について、とやかく言うのは止しましょう。そんな疑念に囚われさえしなければ、瓜二つの顔を利用したトリックはとても面白かったです。そのうえで、ずっと佐清だと思い込んでいた低い声の不気味なほうの男が静馬で、実際の佐清は母親への愛情に溢れていて心根の優しい人だったのだと気が付いた時の驚きというか感動というか......。それであの最後は切なすぎました。静馬、報われないじゃないか......。一方の静馬は、実際恐ろしい奴だったわけですが、母・菊乃は母親思いで心根の優しい息子だと、まるで佐清の人物像のようなことを語る。それがミソなんですかね。でも、菊乃が宮川香琴として犬神家に上がったとき、「女たちは信用できない」と佐清がお茶を持って来たのは、佐清になりすましている静馬が母親だと分かってとった行動というわけですよね。そう考えると、菊乃の言う優しい人だというのにも納得がいくんですよね。それなのに結局殺されて......、ああ、こっちも切ない。佐清も静馬も......。というか、佐清なのか静馬なのか分からなくなってきた。ああ、もう一度観たい。なんで千秋楽にしたんだ。もう次がないじゃないか。数か月前の私のアホ。

 物語の内容に関して言うと、有名なものなのでちゃんと予習していけば良かったなと後悔しました。というのも、ミステリーなのでそれなりに複雑で途中見失いかけました。最後の謎解きでなんとなくは理解できましたが、登場人物が多いし、そもそもキャストの方のお顔の判別ができていないし、ちょっと大変でした。理解が足りていないところが多いので消化不良がたくさん。結局どこが佐清でどこが静馬だったんだ?とか、4人とも松子が殺したの?とか、じゃあなんで佐清が捕まるんだ?とか、そもそも若林なんで殺されたんだっけ?とか、他にも小さな疑問は山ほどあるのですが、これは原作を読んだら解決しますかね。今度、フジテレビで年末に加藤シゲアキさん主演でドラマ化されるというし、それを見たら多少は復習できるかな。でも、そんな私でもとても面白いと感じたのは事実です。単純な思考回路なので、佐清と静馬と入れ替わってることや菊乃の正体なんかが分かってくると、あれもこれもそういうことだったのかと合点がいって、もう驚きまくりでした。ミステリーは楽しい。とりあえず原作、読んでみます。

 でも不思議だなと思ったのは、これは主人公は誰だったのだろうということ。原作や映画がどうかは知りませんが、一応金田一シリーズということなら金田一喜多村緑郎)が主人公?でもこの舞台では金田一の存在ってあまり重要ではないんですよね。家族愛や憎しみがテーマなのかな。ミステリーだってことは二の次って感じで、佐清や珠世が重要なのはもちろん、松竹梅の三姉妹が話を動かしている。ほんでもってチラシは(劇団の序列もあるのでしょうが)宮川香琴がトップですしね。だから最後の謎解きのシーンが来るまで、実は謎解きミステリーだってことを忘れていた私。群像劇というのとは違うような気もしますが、それに近いような感じがしました。原作や映画が金田一の謎解きを中心に物語が回っているのだとしたら、この舞台ならではの描き方は面白いものだったのではないかなと思いました。

 最後は冒頭に似た記念撮影のシーンに戻って正装した皆さんがそのままカーテンコールに入るのが少し不思議な感じでした。最後に、波乃さん水谷さんのお母様お二人のお手を引いて真ん中に立つ浜中さんがとても誇らしかったです。浜中さん自身は少し照れたように控えめで、ペコペコしながら自分の立ち位置に戻っていきましたが、千秋楽ということで何度か幕が上がって、再びお母様たちに呼ばれてエスコートする姿が素敵でした。2回目以降はあまり決まっていなかったのか、グダグダになりつつも皆さんニコニコしながら楽しそうに順番にお辞儀されて、和気あいあいとした様子が見られて嬉しかったですね。特に最後に幕が下りる直前、ずっと控えめにニコニコしながら立っていた佐清に、隣にいた珠世さんが突然寄り添ってちょっかいを出し始めて、その姿がとても可愛らしくて可愛らしくて......。カーテンコールって、物語世界の境界線みたいな物だと思うんですよね。衣装着てセットの中で、でも役者としてお辞儀していく中で、こういう絡みがあると、ふっとまた物語世界のほうへ思いが飛んでいくというか。実際には、宥季さんの粋な計らいで、浜中さんが照れてる構図なわけですが、佐清と珠世がこんな風に仲良く暮している幸せな世界になればいいなあと、切ない最後だったからこそ、ふと思いました。

 新派の舞台は初めて観劇しましたが(というか、新派自体もほとんど初めて知ったようなものですが)、いろんなことに圧倒され驚かされ、本当に素晴らしい劇団だと感じました。そして、そんなすごい劇団の凄い役者の皆さんの中に、自分の応援する浜中さんがいることが、本当に嬉しくて誇らしくて、よいものを見せていただきました。たかが5千円くらいケチらずに一等席で見ればよかった......。可能性は低そうですが、もう一度観られる日が来たらいいなあ。

 

 

ドラマ『犬神家の一族

12月24日21時30分からフジテレビ系にて放送

出演:加藤シゲアキ 他

www.fujitv.co.jp

ゲキ×シネ『髑髏城の七人~アオドクロ』観劇

 劇団☆新感線の舞台を映画館で楽しむ映像作品『ゲキ×シネ』を初体験してきました。

 

『髑髏城の七人〜アオドクロ』

作:中島かずき

演出:いのうえひでのり

出演:市川染五郎(現・十代目松本幸四郎鈴木杏 池内博之 ラサール石井 高田聖子 三宅弘城 粟根まこと 高杉亘 川原和久 佐藤アツヒロ

アオドクロ|ゲキ×シネ - 「演劇×映像」の新感覚エンターテインメント

www.e-oshibai.com


Inouekabuki-Shochiku-mix「髑髏城の七人~アオドクロ」 DVD予告編


GEKIxCINE Official ゲキ×シネ「髑髏城の七人~アオドクロ」予告

 

 新感線の作品は、すべて映像ですが、今年の3月に『ラストフラワーズ』*1、その後、衛星放送でゲキ×シネ作品の『蒼の乱』と『シレンとラギ』、そしてDVDで『Vamp Bamboo Burn〜ヴァン・バン・バーン〜』と立て続けに見ました。初めは客演目当てで見ていたのですが、いのうえさんの演出と劇団員の個性に心惹かれ、気がつけばすっかり新感線の虜になっていた私。東京では『メタルマクベス』でぐるぐる回って*2おられますが東京まで行けるはずもなく、映像でいろんな作品を貪るように漁る日々が続いております。

 新感線の存在をきちんと認知した時には『髑髏城の七人』でぐるぐる回っている頃だったので『髑髏城の七人』とはなんぞやということで調べれば、長い歴史があるものだから驚きました。7年ごとに再演って、一体どれだけ再演するれば気が済むんだ。その上さらに5パターンも展開してぐるぐる回りながら1年間のロングラン公演の真っ只中。俄然興味が湧いてきました。

 可能な限り情報は調べました。公演記録から当時の感想ブログからいろいろと漁り、東京で回っている最中の髑髏城はゲネプロ映像や特番の映像を拝見しました。『髑髏城の七人Season鳥』の戯曲を読んで物語の骨格を把握(阿部サダヲさん主演だったから読んだのですが、今思えば随分と改変された果ての姿だったので最初に読むものじゃなかった)。そしてとどめに1997年に上演された再演版を拝見。ここにようやく『髑髏城の七人』を理解したのです。

 それを経てのゲキ×シネ『髑髏城の七人〜アオドクロ』を観劇。実際の上演は2004年10月。同年4月の『髑髏城の七人~アカドクロ』に続く上演だったわけで、その『アカドクロ』は見たことがないのですが、それでも再演版を見ておいて良かったと心から思いました。舞台って絶対途中で話についていけなくなるんですよね。だからあらすじが頭に入っていたのは大きかったです。さらに比較しながら見られたので(ここにアカが入ればなおのこと良かったのですが)とても楽しめました。

 

 まず市川染五郎*3さんの美しさたるや。捨之介の白髪に白い着流し姿のなんと麗しいことよ。歌舞伎の方だから捨之介の飄々とした軽さもなんだか上品で、見えを切ったり花道を駆け抜けたりする姿は見事なもの。それがまたかっこいいんですよね。でもちゃんと捨之介になっていて、それが証拠に天魔王の時はまたガラリと雰囲気が変わりますから。かっこよかったです。

 美しい麗しいと言えば池内博之さんの蘭兵衛も綺麗でした。青系統でまとめられていて涼しげな雰囲気ですが、お声や台詞回しは重たく落としているギャップ。そして髑髏城に向かう前の白い花との切なさ。今に続く蘭兵衛の麗しき二枚目俳優客演ポジションはこのあたりから作り上げられたのかな、なんて思いました。そんな麗しき蘭兵衛と天魔王の口説きの場面で夢見酒の口移しの絵になることと言ったらもう......。これは今となっては定番(?)のようですが、97年再演版では盃を渡すだけですよね。初演はどうだったのでしょうか。初演同様に『アカドクロ』では蘭兵衛役が女性で、そのアカでは口移しがあったようですが、この時から始まったのでしょうか。いずれにせよ、アカで女性だからこそと思わせて、アオで男性でも口移しにしたと考えると......、ああなんかもう良いです。

 佐藤アツヒロさん演じる忠馬はオリジナルの兵庫とは、また違ったアホ加減と愛しさを持つキャラクターでした。忠馬のほうが幼いというか子供っぽいというか(才蔵という保護者みたいな子分がいるからかな)、それ故の純粋さが愛おしい。アツヒロさんは『七芒星』を見たことがあったのですが、それから考えると随分と振り切ってふざけた感じになっていますね。でも忠馬のほうが数段若々しく見えました。光GENJIネタが絶対入ってくるのがジャニオタとしては楽しいです。花道を「夢はフリーダムフリーダム」と歌いながら通過したり、踊りながら突然ローラースケートのように滑り出したり......ローラー靴、懐かしいですね。当時の自分の年齢を換算してみたら、確かにローラー靴が大流行してた頃で周りみんな履いてましたからね(私は買ってもらえなかったけど)。でもあの靴、滑る分には良いとして履いたまま踊ったり普通に歩いたり走ったりするのは相当やりづらいと思うんです。そんなところに凄いなと感心していました(笑)

 忠馬の子分でありながら、保護者のように優しく見守る才蔵を演じるのは川原和久さん。この才蔵、大人気な理由が分かりました。もとは侍として忠馬を仇討ちのために追っていた身でありながら、忠馬の信念に共感してついて行くことにしただなんて、人間がかっこよすぎる。最後まで忠馬を思って戦って死んでいったなんて、切なすぎるしかっこよすぎるわ。才蔵はこのアオドクロからの登場のようですね。少なくとも97年の再演版には才蔵のような役はいないし、初演とアカドクロにも登場人物を見る限りいないように見受けられますが、合ってますかね? 全体総じて言えることですが、新しいキャラクターの登場によって、それぞれの物語や関係が深く掘り下げられているようで、この才蔵の存在も、忠馬の子供っぽさと呼応して物語も掘り下げてくれています。才蔵万歳。

 新感線作品を観ているうちに気になる存在になっていった粟根まことさん。その粟根さん演じる渡京もまた最高でした。「陣内孝則でぇす」とよく分からないモノマネ。友達のそろばんころすけくんブッブ~の気持ち悪さ(←失礼)。その他諸々、基本的にずっと面白いことになっていて、終始面白かったです。最初に見てるのが粟根さん演じる蘭兵衛だったものだから、そこから考えると「かっこいい」から「面白い」へのギャップが激しいのですが、ふざけ倒す粟根さんも最高でした。ジャンボころすけくんによるそろばん殺陣はかっこよかったです。ところで脱線しますが、この渡京のそろばんキャラは前回の粟根さんの蘭兵衛がそろばんキャラだったことが始まりなんですか?鳥ドクロの渡京もそろばんだったので元からそういうものだとばかりに思っていましたが、初演のオリジナルの渡京はそうではなかったのかなあと......どなたか詳しい方、教えてください!

 さて、新感線にハマったと言いつつ、実はこの方が目当てだったと言っても過言ではない三宅弘城さん演じるカンテツ。なんだこいつ可愛い。『修羅天魔~髑髏城の七人Season極』で「キン消しみたい」「キーホルダーにしたい」*4と言われるのも頷ける可愛さ。三宅さんはうつけやバカキャラをやらせたら天下一品ですね。刀を「タナカ」と言い、「斬鎧剣」にわざわざ「タナカ」とルビを振り、タナカさんだのウチダさんだのマチダさんだの東横線だの、しつこいほどに間違え、鳩を食べ、バカナ(もといバナナ)を食べ、敵を倒しながら師匠の贋鉄斎(逆木圭一郎さん)を打ちのめし、その師匠に濁点をもらって頭の右上でビヨンビヨンと揺らしながら喜んでいる。ずっと面白い。ずっと笑ってました。結構真面目なシーンでも捨之介をウチダさんと呼ぶ始末ですが、それさえも許せる愛おしさ。それなのに百人斬りや贋鉄斎のアトリエで髑髏党に襲われたときの殺陣では側転やバク転などのアクロバティックな動きが盛り込まれていて、さすがの身体能力。かっこよかったです。しっかし、面白かったあ。

 贋鉄斎の役割が弟子の(おバカな)カンテツになったのも『アオドクロ』ならではですが、個人的には、百人斬りの斬っては研ぐ理由が、贋鉄斎の頭の中には百人斬れる刀の構想があったのに死んでしまったがために、カンテツが自分にはそんな刀は作れないから、斬る度に研げば百人斬れるという話*5、流れが綺麗でカンテツらしさもあってめちゃくちゃ好きでした。忠馬に頼まれ錆び付いた刀を研ぎ直したらバレエのリボン(非道丸曰く鰹節)のような薄っぺらの刀になってカンテツ自ら「俺すげえ」と自慢している姿もカンテツらしくて愛おしかったです。*6

 メインキャストではありませんが外せないのが、アクションクラブの川原正嗣さん演じる非道丸。かっこよさ半端ねえ。ハゲなかったら最高にかっこいい(笑)まあ、それが面白いんですが。ちょうどDVDで『レッツゴー忍法帖』を見た直後で、こちらでも川原さんカツラが取れてハゲるネタがありましたね。上演当時としても『忍法帖』の次が『髑髏城の七人』だったはずなので、もはや定番ネタのなのですかね。*7しかし、ハゲたとしても川原さんの二枚目キャラはかっこいいです。何より声がいいですよね。そして言うまでもなく当たり前に殺陣が美しい。それがあるからこそのハゲですよ。川原さんこれからも応援してます。

 

 さてさて、『髑髏城の七人~アオドクロ』そのものについては、小ネタも含めればまだまだ言いたいことは山ほどあるのですが、そろそろ収めましょう。最後にこの<ゲキ×シネ>というものについて。

 7千円ほどのDVDを買おうか躊躇うような私には、普通の映画料金で見られるこの<ゲキ×シネ>はありがたいものでした。しかも映画館ですからもちろん大画面で音響設備も整っているので大迫力。サラウンドで、花道の後ろの方でしゃべっているシーンは後ろから声が聞こえて、まるで同じ空間にいるかのよう......とは言いすぎかもしれませんが、家の小さなテレビでDVDを見るよりは遥かに良かったと思います。まあDVDには何度も見られるという利点があって、事実もう一度見返したいシーンも多くあるのですが、実際の芝居の上演を思えば一度きりのものですし、映画料金程度であれば後で本当に気に入った時にDVD購入を検討するのもありかなと思うと、初見として<ゲキ×シネ>を選択するのは悪くないと思いました。

 今回は14年前の過去の作品で、当時は見ようにもまず知らなかったしローラー靴を両親におねだりしていたような頃なので仕方もないのですが、例えば観に行きたかったのに観に行けなかった作品(例えば東京でぐるぐる回ってるやつとか)が<ゲキ×シネ>という形で上演されるとしたら、こんなに嬉しいことはありません(今、ぐるぐる回ってたのが<ゲキ×シネ>になるなら私は映画館に通います)。事実、<ゲキ×シネ>になる作品は、まず<ゲキ×シネ>として上映されてから、後にその映像がDVDとして発売される形のようですし、現に『乱鶯』はDVDはありませんが、<ゲキ×シネ>として上演されているようなので、これは画期的です。

 強いて言えば、映画館だからかなんとなく静かでしたね。拍手とかもないですし。観客が少なかったことも影響しているかもしれませんが、実際の劇場ならどっかんどっかん笑い声が上がるだろうなというところでも、みんなクスクス笑う程度で、少し寂しかったですね。

 しかし、<ゲキ×シネ>は良いですね。この調子で新感線にどっぷりハマるようであれば、毎月でも通ってしまいそうです。とりあえず現段階では『髑髏城の七人~アカドクロ』と『乱鶯』と『メタルマクベス』を観たいので、近々上演されることを願っております。

 

 それにしても『髑髏城の七人』は歴史が長いだけに奥も深い。そもそも知らないことが多すぎて気になることが多いので、詳しい方にぜひ教えを請いたいです。このジャニーズに偏りまくりのブログがどれほど新感線ファンの方の目に留まるか分かりませんが、ぜひコメントお待ちしております。色々教えてください。でもまずは見られる作品、読める戯曲は片っ端から目を通していきたいと思います。とりあえず中島かずきさんが書かれた小説版の『髑髏城の七人』を手に入れました。これで少しは解決するかな。

髑髏城の七人 (双葉文庫)

髑髏城の七人 (双葉文庫)

 

 

*1:正確には大人の新感線で松尾スズキさん作、いのうえひでのりさん演出ということで、半分大人計画、半分新感線なわけですが

*2:上演中の劇場である東京の豊洲IHIステージアラウンドは客席が360度回転するらしい

*3:今は松本幸四郎さんですが染五郎さんで通します。だって上演の前後のコメントは染五郎って名乗ってるし、未だに染五郎さんって感じですから

*4:

新感線公式ツイッターです。 on Twitter: "みんな大好きキン消しみたいなカンテツと今日は泣き虫の元気娘、沙霧。目が赤かったから写真は撮らなかったけど、大変な機構の劇場で、あれもこれもやること満載の沙霧…ほんとにお疲れ様でした。いつまでも見ていたいほんわか仲良しコンビ!また新感線でご一緒できますように。… https://t.co/F37hh8Fhhh" 

猫背椿 on Twitter: "ヒロキックスは天海さんに「頭のてっぺんに金具付けてキーホルダーみたいに持ち歩きたい!!」と言われてました。… "

*5:97年再演版は贋鉄斎自身が「百人も斬れる刀はできない。斬る度に研ぐしかない」と言う

*6:97年再演版は贋鉄斎が「手入れを怠るな」と言って研いでめちゃくちゃ短い刀になる

*7:さらに元ネタは轟天?合ってますか?