それを嫌いになれないから

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初めて見た稲穂の海 @METROCK大阪

 2018年5月19日と20日、大阪堺市の海とのふれあい広場にて開催された『OSAKA METROCK2018』に参加してきました。まだまだフェス初心者でメトロックは初参加でしたが、とても楽しかったです。

 これは一応都市型フェスに分類されるのでしょうか。堺駅まではアクセスがいいし、駅からはシャトルバスがひっきりなしに出ていて、感じ方は人それぞれですが私はスムーズに感じていて非常にストレスフリーでした。

 今回、このメトロックに参加した理由は主に2つ。1つは単純にフェスというものに参加したかったということ。会場も近く、JポップやJロックが好きな私には最適なフェスでした。そしてもう1つはもちろん出演アーティスト。今回、主に見たかったのはキュウソネコカミ岡崎体育ゲスの極み乙女。、そしてレキシでした。体育さん以外は今回初めて見ました。

 まず1日目、トップバッターだったキュウソネコカミ。会場に着いた時点ですでに多くの人が集まっていたBAY FIELD。メトロックもキュウソも初めてで着いたばかりということもあり、少しビビって後ろの方で観ました。今思えば、もっと前に行けばよかったなと後悔しています。しかし、それでも存分に楽しむことができました。「MEGA SHAKE IT」での掴みはバッチリで、好きな曲もたくさん聴けて、新曲「The Band」も聴けて、初っ端から弾けまくって本当に楽しかったです。次の機会にはもう少し前に行ってみようかな。セイヤさんを支える自信はないけど(笑)

 ご飯を食べながら、色々なアーティストをこっそり見てから、次に行ったのはGREEN HILL。岡崎体育さんです。体育さんは昨年の「MONSTER baSH」で初めて見ました。楽しいことは間違いないし、連れも体育さんファンだったので前のほうに行きました。OPで「今日は何できた?阪神?阪急?JR?俺は宇治から近鉄」みたいなこと歌っていていきなり大笑い。みんなで足踏みして飛んで踊って「うんぱっぱのぶんぶん」やって、びっくりするほど短い持ち時間でしたが、とても楽しかったです。

 その後は、THE BAWDIES夜の本気ダンスを後ろの方で座って鑑賞し、その後エレファントカシマシへ。とてもかっこよかった。エレカシを生で聴ける日が来るとは。感動でした。この辺りから(というか一日中)寒くて、温かいものを求めて歩き回っている時にNulbarichを少し聴いたのかな。綺麗な音楽で少し気になりました。それからトリのback numberへ。帰りのことを考えて5~6曲聴いて途中で抜けてしまったのですが、さすがの盛り上がりで凄かったです。バスに並んでいると「青い春」が聴こえてきて悔しかったのですが、「高嶺の花子さん」や「MOTTO」は聴けたので大満足で一日目は終了しました。

 2日目は早めに会場に到着したので、まずグッズの購入に向かいました。目当てはレキシ。他の列に比べるとまだ空いていたのですが、私が並んだ後くらいから列がどんどん長くなる。早めに行って本当に良かったです。買うのはやはり稲穂!思ったより長くてしっかりした作りでビックリしたのですが、並んでいるときから稲穂を持った方々が戻ってくる光景は音楽フェスとは思えない面白さですね。鞄から稲穂が生えていたり、腰から吊るされていたり、一日中稲穂が溢れていました。

 連れの要望でまずBAY FEILDでKANA-BOONを鑑賞。そういえば前説の弘中アナ可愛かったなあ。「フルドライブ」をバンドでコピーしたことがあったので本物は最高でした。続いてKEY TALKも観に行きました。こちらは全く曲を知らなかったのですが、最後の曲なんて言うんだろう、とても楽しかったです。それから会場内をウロウロしているときにNeighbors Complainを少し見ましたが、ちょっと気になりました。フェスは、知らないけどいいなと思えるバンドに出会えるのが楽しいですね。

 さて、ここからは私のお目当てが怒涛の登場。まずはゲスの極み乙女。を観に行きました。色々あった話をネタにしていましたが、音楽に罪はないのでね。ちゃんMARIがとても可愛かった。あんなに可愛いのにキーボード弾いたらめちゃくちゃかっこいいっていうギャップにやられますね。勢いで割と前のほうまで行ってしかも下手側にいたので、ちゃんMARIガン見状態でした。最近の曲はあまり聴けていなかったのですが、以前の曲をたくさん聴けたので楽しかったです。「キラーボール」は本当に最高でした。ちゃんMARIかっこいい。

 その後はGREEN HILLへ。never young beachはガッツリ知っているわけではなかったのですが、気になっていたので観れるものは観ておけ、ということで行きました。レトロな雰囲気漂うサウンドにボーカル安部さんの声が心地よく、傾き始めた日が少し暑かったのですが、それさえもネバヤンのイメージに合っているような気がして、聴けて良かったと思いました。

 そしてついに大本命レキシです。BAY FIELDのステージに幟が上がると、暇だったこともあって1時間近く前から待機していました。そのおかげで信じられないくらい前にいたのですが、次々と集まってくる人に若干ビビりました。そしてその大半が稲穂を手にしていることにも。池ちゃんのキーボードのサウンドチェックに興奮しながら(別に本人いませんよ。でもなんか湧きません?)、稲穂の手入れをしながら待ちます。そしてついに鳴り響く法螺貝とともにレキシ登場。初めてのレキシです。もう大興奮。一斉に稲穂が天にそびえ立ち「まだ早い」とお叱りを受けました。「稲穂持ってる奴がおかしい」ってそりゃ無いよ(笑)「KMTR645」でイルカとともにキュキュキューと一気に大盛り上がり。「KATOKU」ではダサく拳を突き上げ「SHIKIBU」ではブンブンと唱和。曲中も曲間も常に面白い池ちゃん。ついに稲穂の出番「狩りから稲作へ」で一斉に実り始める稲穂。曲中には西城秀樹さんを追悼し「ギャランドゥ」を稲穂に夢中~と替え歌。稲穂を持っていない人は手でやるんだよ→手稲→ていね~ていね~丁寧に~という流れで本日の大トリであるサカナクションの「新宝島」になるとバンドメンバーがノリノリでイントロを始め「やめなさい」と言いながらも歌うレキシクション。最高でした。「同じビクターだから追い出される。インディーズになっちゃう。カクバリズムとか...」とどんどん無茶苦茶なことを言い出す池ちゃんに大笑いしました。稲穂で最高に盛り上がると次に始まったのは「salt&stone」これまた大興奮。そして最後は「きらきら武士」で見事な青空のもと武士コール。池ちゃんのキーボードもキレッキレで最高にかっこよかったです。本当にずっと楽しくてずっと笑っていました。大満足でした。

 レキシの興奮冷めやらぬまま急いで移動してsumikaを観に行きました。昨年の門バスで観たときから気になっていたので予習のつもりで聴いていたらすっかりハマっていました。生で聴ける喜びが大きかったです。綺麗なサウンドで優しい音楽が多いイメージですが「ペルソナプロムナード」はとてもかっこよかったです。GREEN HILLのトリだったこともありアンコールが湧いていましたが、メンバーが登場して、演奏はできないとわざわざ説明してくれたことに優しさを感じました。

 そして、メトロック大阪の大トリ、サカナクションです。前日同様途中で抜けたのですが、サカナクション凄いの一言です。「新宝島」を聴けなかったのは残念でしたが、最後に素晴らしい音楽を聴いて、私のメトロックは幕を閉じました。

 初めてのメトロック、初めて見るアーティストばかりで、とても新鮮で思う存分に楽しみました。行くまでは2日も野外で私は生きていけるのかとか、ワンマンのほうが好きなんじゃないかとか、いろいろと心配なこともありましたが、フェスやっぱり楽しかったです。来年も絶対行くと思います。ってか行きたいです。本当に最高な時間でした。

大人の新感線『ラストフラワーズ』を今さら見ました、映像で。

 今年3月にWOWOWで放送されていた大人の新感線『ラストフラワーズ』を観ました。なんか時代遅れですね。大人計画はもうすぐ『ニンゲン御破算』が始まりますし、劇団☆新感線は『修羅天魔~髑髏城の七人 season極』の真っただ中だと言うのに。でも最近見たんですもの。公演自体は2014年に行われ何度か放送されていたようですが、私はこの度初めて拝見しました。

 以前紹介したように突然に個人的大人計画ブームといいますか、もうすっかりファンになってしまいました。とは言ってもまだ映像でしか見たことがないので『ニンゲン御破算』はぜひ観てみたいなと思っているところなのですが、いかんせん人気公演なのでチケットが取れるか心配です。

 さて、短期間の間に大人計画のこと、小劇場の演劇のこと、それなりに勉強いたしました。大人計画の過去の公演も可能な限り漁りました。そうやって調べている間に気になったのが大人の新感線『ラストフラワーズ』です。演劇について調べていれば、もちろん劇団☆新感線についても少なからず触れてきました。大人計画と新感線のタッグ。未熟者にもこれがいかに魅力的なものであるかは一目瞭然でした。なんとか観てみたい。そんなときにいいタイミングで放送されていたのです。というわけで、公演からは4年近くが経過し放送からも時間が経っていて今さら感満載ですが、少しばかり感想を述べてみようと思います。

 やはり演出の力は強いのか、演出がいのうえひでのりさんということで一見した印象としては新感線らしさを強く感じました。太鼓や東京スカパラダイスオーケストラによる壮大で華やかな音楽やダンスは圧巻です。また登場シーンやちょっとした動きやギャグに細かく効果音が乗るのは新感線らしさの象徴だったりするのでしょうか。あまり数を見ていないので分かりませんが、私が初めて新感線の作品を観たとき一番印象的だったのがこの効果音でした。音が付くことでただでさえ面白いギャグがさらに面白くなり安心して笑えます。

 そうは言っても、脚本の松尾スズキさんが作り出した物語はさすがです。それぞれの話が同時進行で進みはじめはバラバラに見えるのに、点だったそれらのエピソードがひとつずつ徐々に線で結ばれていき一か所に収束された瞬間はある種の喜びを感じます。時間軸のずれが少なかったので他の作品よりは分かりやすく、内容もさることながら物語が繋がったことに感動しました。内容も物語の根本は他の作品と比べるとシンプルで分かりやすく、それを形作るそれぞれのエピソードが濃密で面白かったです。

 あらすじもネタバレも今さらどうってことないと思うので、だらだらと感想を書きます。

 橋本じゅんさんの二役には驚きました。勝場典明とシン・ジョンホンという重要人物二人を演じられていて、それぞれが敵対組織なだけに正直はじめはどっちなのか混乱しました。二役である必要性はあるのかと疑いましたが、後半でシンが典明を呼びに行くシーンを観たときに納得。感動さえ覚えました。「お前のキャリアならできる」笑いました。キャリアの問題じゃないですよね。でも入れ替わりがとても速くてそれだけでも十分素晴らしかったです。シンを演じられている時の橋本さんは本当に可愛らしくて、一方の典明は貫禄があり、役者さんって本当に凄いんだなと思いました。

 新感線の作品は大人計画に比べるとまだあまり観ていないので役者さんもあまり知らなかったのですが、河野まさとさんと粟根まことさんがとても気になりました。河野さんは若い方なのかなと思っていたのですが、実際の年齢を知って驚きました。河野さん演じるミャーの高い身体能力や軍二郎(阿部サダヲ)に甘える様子、その他もろもろの言動や仕草からとても若々しい印象を受けていたので本当に驚きました。粟根さんはお声に惚れました。サルバドルはどちらかと言えば悪役でしたが、その嫌なヤツ感が全身から漂っていました。それなのに長〜いワイヤーが付いていて飛んだり、セレスティーノ(松尾スズキ)との絡みではコーヒーや唾はかけられるし、最期のシーンなんか「はいみつきんかんのど飴」「ノーベル」ですから。そのダークさと笑いのギャップに楽しませていただきました。

 古田新太さんはよく存じていましたが、知らなかった一面をたくさん見た気がします。かっこいいのに至る所にボケがかまされてずっと楽しかったです。軍二郎(阿部サダヲ)の事務所でのシーン(ゆっくり考えて銃を撃つやつ)とか、早川(宮藤官九郎)の病室のシーン(強気の取り立てだったのにええ話や~言って怪我が自分のせいだと知って落胆する一連のくだり)とか、松尾さん演じるオンドルスタンの軍人との一連の絡み(特に「洗濯ネット」これ面白いの松尾さんか)とか、「おどれー!踊るな!」(これも面白いのは犬塚(星野源)とひかる(平岩紙)か)とか、終始笑ってました。ファットダディとしての三蔵さんのわかりやすいほどにコテコテのトーンの高い関西弁は本当に面白くて大笑いしました。ミッシングの時(特に殺陣のシーン)はかっこいいので、余計に笑わせてもらいました。高田聖子さん演じるみよ子との朝から濃厚なキスにも役者魂を感じました。高田さんもみよ子のザ関西のおばちゃん感とミンスのときの貫禄あるお姿とのギャップにやられました。いやー、新感線恐るべし。

 唯一客演の小池栄子さんは両劇団員のキャラの濃さに負けず劣らず素晴らしい存在感でした。小池さん本当に可愛い。そしてセクシー。オープニングのお歌からもうエロい。何なんですかね、あの美しさは。それでいて演じられたnananaはなかなか突飛なキャラクターで笑い要素もしっかりあり、小池さんのこと好きになりました。素晴らしかったです。

 大人計画に移りましょう。今回一番笑ったのは荒川良々さんかもしれません。いるだけで面白い。特に登場シーンが好きです。「刑期満了です」の笑顔とか「整形しました」「前は和泉元彌みたいだった」とか、これだけでも面白いのに新感線ならではの効果音があいまって笑いが止まりませんでした。面白いと言えば皆川猿時さん演じるジョンオクのオンドルスタン語も笑いました。アドリブのようですが酷いですね。でも楽しかったです。こちらは意味ある二役でピッグも演じられていましたが、こちらはとてもキュート。サルバドルに言う「肌の質感が嫌〜い」がツボでした。

 村杉蝉之介さんの豹変ぶりにはいつも感動します。お芝居されてる村杉さん大好きなんです。今回は三役されていて、前半のつげ分析官は真面目な役で服装も含めとてもハマっていたのですが、後半はオンドルスタンのヒュンダイというまったく正反対の暴力的な役柄で、この豹変ぶりが素晴らしかったです。でもそれ以上にこの二つの役の間に演じられたドンナム(村木仁)を拷問するベク教授が強烈に印象的でした。つげともヒュンダイとも全く違うある意味ヤバイ役でそのヤバさが妙にハマってました。「吹くほうがいい?吸うほうがいい?こちらの希望をいうと吸うほうが好き」今でも脳内で反芻されて思い出し笑いが続いています。

 宮藤官九郎さん演じる早川速男は何気に重要な役どころでしたが、そのキーパーソンぶりよりもギャグパートが印象に残ってます。アニメーションとともにたい焼き屋の実情を訴えた『道路のたい焼きくん』最高でした。生着替えは嬉しかったですね。ブツブツ文句を言いながら着替えてる姿は面白いですし、見つかった時の応戦の言葉にも笑わされました。三蔵との絡みも好きでした。「ホモなの?」「小さすぎるぜ」お互いにボケたりツッコんだりとても面白かったです。早川にも『ラストフラワー』歌ってほしかったなあ。

 阿部サダヲさんは二役と言いつつ、実際に軍一郎を演じられたのは1シーンのみでほとんど軍二郎でしたが、この軍二郎にまんまと私も騙されました。登場シーンこそふざけていたものの狂気じみた軍二郎の印象が強いせいか、面白いシーンの記憶があまりないのですが、ツッコミのほうが多かったのかな。でもオンドルスタンに入国した時の変装と「山ほど~」には笑いました。

 物語について考えると話がまとまる自信がないのですが、みんなそれぞれの信念があって動いているのだがそれが噛み合わないから争いが起こるのかなと少し思いました。不条理とか矛盾とか世の中にはそんなものばかりが溢れていて、悪いと思われていた人たちも完全に悪い人ではなくて、でも人知を超えたものを人間はやはり排除しようとするし、でもそれさえも情けをかけて手を差し伸べてしまうのが人間で。愛する者を失い、たくさんの血が流れ決してよい結末ではないものの、ジョンオクの愛した早川の平和の曲『ラストフラワー』とともに世界の平和は守られて、三蔵も娘を殺した軍二郎を引き取って、すべてが上手くいくわけではないけれど、これも一つの正解なのでしょうね。もう少し大人になったらもう一度考えてみたいと思います。

 音楽はさすが東京スカパラダイスオーケストラさん、めちゃくちゃかっこいいです。ブラス音がスパイを題材にしたこの壮大な物語に絶妙にマッチしていてさらに盛り立ています。オープニングでnananaが歌う曲なんか特にセクシーでカッコいいです。それとは対象的に、早川の『ラストフラワー』はアコギの音色も相まって明るさの中に少し切なさや哀愁が漂うような美しいメロディー。しかし、EDは一変して軽快な曲調で明るく、同じ曲でこうも変わるのもかと感動しました。キャスト全員で合唱するラストは胸が熱くなりました。『ラストフラワー』本当に名曲です。スカパラ版の『チャンス』も素晴らしかったです。

 物語こそ難しくて3回くらい繰り返し見てやっと分かってきた感じですが、とても楽しませていただきました。本当にもっと早く出会いたかったと日々思い続けています。またこんな夢のような舞台が行われる日を夢見て、4回目の『ラストフラワーズ』を録画で観たいと思います。

 

映画『幼な子われらに生まれ』で見た家族の在り方

 ある時、映画『幼な子われらに生まれ』の予告編を動画サイトで発見しました。2017年8月に公開された映画で、三島有紀子さん監督、荒井晴彦さん脚本。原作は1996年の重松清さんの同名小説。なんでも重松さんと荒井さんとの間で映像化する約束をされていたそうで、21年の時を超えそれがついに実現したそう。物語にもとても興味を惹かれました。そしてついに観たのですが、まず面白かったです。いろいろ思うところがあり少し書き残そうと思います。

 物語は再婚した主人公・田中信(浅野忠信)とその妻と連れ子の血の繋がらない家族の話。妻の妊娠をきっかけに歪む家族と、それぞれの元妻や元夫との関係、子どもの純粋さや葛藤が描かれます。

 予告であらすじを把握していると、映画の始まりが実の娘・沙織(鎌田らい樹)との面会から始まるのには驚きました。会話の端々に現在の状況が現れていますが、それがなければごく普通の仲の良い親子のように楽しそうな二人の姿。でも3か月に一度しか会えないからこそこうまで楽しめているのかとも思ったり。一変して観覧車のシーンは少し寂しいというか。娘に甘える父親ってどうなんだ。後にメールでも愚痴を言っていたし(結局は送信していなかったようだが)。娘が継父と上手くやっているのに嫉妬を抱いているのかなとも思いました。娘の笑顔を独り占めしたいのか、自分が妻の娘・薫(南沙良)と上手くいっていないからか。

 会社の人(池田成志)との意見の違いも興味深かったです。働く父親の背中を見せるべきか、今一緒に過ごせるときに一緒に過ごすべきか。この時は、本当は働きたいけど再婚だから頑張って家庭を大切にしているのかなと思っていたのですが、回想で元妻・友佳(寺島しのぶ)の仕事に夢中なところを嫌がっているようだったので、そういう性分なのでしょうね。でも出向になって「ロボットみたいな仕事」と言ったのはやはり仕事にもやりがいがほしいのか。人間そんなに簡単ではないからどちらも本心なのでしょう。

 前の父親を覚えていない娘・恵理子(新井美羽)は信に(普通に父親として)懐いているようで、その純粋さが時々痛いです。一方姉の薫は完全に不機嫌。思春期というのもあるのでしょうか。よく分かりませんが、妊娠を知ってこうなったってことですよね。飾られている写真などを見る限りでは楽しそうに映っていますし、後の回想で初めて信と会った時も、ずっと男性を怖がっていたのに心を開いていたようですし。信と奈苗(田中麗奈)の血の繋がった子供が生まれると聞いて、思春期であることも含めて、改めて信と血が繋がっていないことを意識してしまったということでしょうか。ちょっと過剰な拒否反応のような気がしますが、良く思えないのは自然な反応のように思います。私の年齢的にも、親の気持ちよりこの子供の気持ちのほうが分かる気がします。

 妻の奈苗はマイペースというか少し空気が読めない様子が、腹が立つほどでした。薫が本当の父親・沢田(宮藤官九郎)に会いたいと言った話を聞いて「沢田と薫を会わせることを心配するより、あなたが沙織さんと会わないようにしてくれた方が私は嬉しい」と話したのには無神経にもほどがあると思いました。沢田は家庭内暴力をふるっていたようなので薫と会わせたくないのは分かりますし、同じ考えで前の家族と会う必要はないと考えているのかもしれませんが、ちょっとひどいなと思いました。後に薫自身が二人の前で「このうち嫌だ。パパに会いたい」と言い出した時も空気読めない感じが炸裂していて薫や信の感情を逆なでするし苛立ちを通り越して、こういう人いるよなーと感心してしまいました。

 この3人の言い争いのシーンは印象的でした。薫の言う、なぜか分からないけどなんか嫌だという感じも言葉にしづらいですがとても理解できます。でも3人とも意見が違って、どの言い分も理解できる一方で、それらはもちろん噛み合わないし妥協もできない。この複雑でどうすることもできない不毛な言い争いを父親という立場でとりあえずねじ伏せ、でもそれぞれに消化不良に終わっているところがなんともリアルでした。

 沢田は自分が家族にしたことを分かっているというのが、悪気なく暴力ふるって束縛する人より逆に残酷でした。「別れるために嫌がることをした」という言葉もそれを物語ります。絶妙なタイミングで挿し込まれる回想の家庭内暴力のシーンが本当に怖い。奈苗だけでなく子供にも手を上げ、最後に映る折れた血まみれの歯が悲惨さを物語ります。沢田の言う、すがってくる妻や雁字搦めにしてくる子供が煩わしかったという言葉が、信にも実は当てはまっていたのだと後で思いました。「どうしたらいい?っていうあなたも、薫のことも分からない。恵理子だって何言いだすか」と叫び、子どもたちの前で奈苗を押し飛ばしてしまい「結局その人も同じだったんじゃん」と薫に言われるシーン。かなり時間を隔てていますが、ハッとなりました。それがあって、沢田に手間賃10万円だけでなく40万円も渡して薫を引き取ってもらうことを一瞬でも考えてしまったのでしょう。結局10万円に踏みとどまったのがせめてもの救いでした。

 元妻の友佳とは娘との面会もあって関係が良好なのが沢田とは対照的でした。しかしこちらの二人も夫婦としてはあまりにも価値観が合わな過ぎたのでしょうね。回想で信に無断で子供をおろした時の言い合いは、これまたどちらの言い分も分かる分、決着がつかないのがもどかしい。無断でしたことは良くないけど、仕事をしたい友佳にとって子供がいたら両立できないだろうと思うのは当たり前、一方の信が相談するべきだったと主張するのも分かるが、子どもがいても仕事すればいいというのは簡単に言えることではないですしね。難しい問題です。でも久しぶりに再会して「理由は聞くけど気持ちは聞かない」と信に言った友佳の言葉はちょっと疑問でした。あの流れで気持ち聞けるかな。なんで?どうして?になるのは自然だと思うのですが。まあその時の私の気持ちも考えてってことなのでしょうが。

 この二人の再会を聞いて沙織は信に会いに来るわけですが、ここでもいろんなことが対照的に描かれます。沙織と継父とは信と友佳がたまには会うべきだと言っていたというし、実際に会うと沙織は継父のことがかわいそうになったというし、薫や奈苗とは明らかに違いました。本当に様々な形があるものです。

 この最中、末期がんの継父の危篤が告げられ、奈苗と恵理子も乗った車で沙織を病院へ連れていきますが、このシーンは一番好きかもしれません。恵理子が沙織と信の関係を尋ねたときの沙織の「お友達」という回答。感心させられました。幼い恵理子に説明するにはそれが妥当だった訳ですが、上手く言い表した言葉だなと思いました。きっとその言葉があったから、初めは嫌悪感をあらわにしていた奈苗も信と沙織を微笑ましく送り出すことができたのでしょう。

 継父のことを悲しめないという沙織でしたが、病院では泣いていました。信との関係は良好だからこそ「友達」と表現したのでしょう。しかし道中に恵理子から赤ちゃんが生まれる話を聞いたことで、自分には知らされていなかったうえに信の家族があることを思い知り、自分の今の父親は継父だけだと感じたのではないかと思いました。信と継父を会わせたいという沙織が健気でした。

 病院からの帰り道で信が恵理子に事実を話すシーンも好きです。沙織は前の奥さんの子供、薫と恵理子は前の旦那さんの子供、でも今は二人の父親は自分だけ、一番大切なのは二人だと言った後で、無邪気な恵理子の「恵理と沙織ちゃんはお友達」という言葉が純粋ながらも心に響きました。子どもだからこそ言えた言葉。きっと幼いながらも事実は理解しているのだと思います。そのうえでこう考えられる純粋な心が羨ましいです。

 薫と沢田の待ち合わせ場所に信と恵理子が行くシーンもよかったです。薫が会う相手を「友達」だと恵理子に説明し、屋上で会った沢田のことを恵理子の「友達」だと言う。この「友達」という言葉、本当に素晴らしいと思います。親子とは言えないからこそ、それでも他人とは違う繋がりのある複雑な関係を幼い子供に言い表すのに本当にぴったりだと思います。正装してプレゼントまで用意していた沢田は少し人が変わったようで、恵理子を見る目は優しく父親のようでした。薫との思いでを語りますが、彼にも少なからず罪悪感とか父親としての思いとかがあったのかもしれません。完全な悪者ではなかったのでしょう。

 沢田と会わなかったくせに会ったと嘘をつく薫に、「お父さんに会いたい」というのはやはり意地悪で言っていたのだと分かります。以前、暴力を振るわれていたことに触れながら本当に会いたいのかと信に問われたときに怒った薫は、沢田を侮辱されたせいかと思いましたが、本当は沢田のことが怖くてそれを思い出させるようなことを言われたからだったのかなと思いました。静かに薫の嘘がバレていることを示し諭す信は本当の父親のようでした。「どんな気持ちになった?」というのは友佳の言葉があったからこそですよね。友佳とのシーンと同レベルでは考えられるものではないと思うのですが、信としては成長した姿ということなのでしょうか。プレゼントの子供っぽいぬいぐるみを抱きながら泣く薫は何を思ったのでしょう。ああやって優しく諭されて同時に慰められると理由は分からずとも涙って出てくるものじゃないですか?怖かった沢田の優しさ、嘘をついて約束を破った罪悪感、それを見透かされ叱られる悔しさや情けなさ、そして何より他人だけど父親である信の温かさに、いろんなものが溢れ出たのだと思います。あの薫にはとても共感しました。

 これがあって薫も少しは変わったのでしょうが、一度作った壁というのはそう簡単に壊せるものでもありません。そこで祖母の家で暮らすという選択肢はこれまた名案ですね。適当な距離を保ちながら家族としてちゃんと前に進み始めている様子が最後に描かれているのが、すっきりしない箇所がいくらかありつつも最後にしっかり締めてくれた感じがして好印象でした。後味の悪い映画もまあ嫌いではないのですが、少し希望があった方が気持ち的にも楽ですね。

 演技についてどうこういうのはあまり好きではないですが、みなさんとてもリアルというか、特に子役の3人がリアルで、リアルすぎて本当に実在しそうで逆に怖かったです。でも年齢設定には違和感がありました。実年齢が設定よりも年上過ぎませんか。それから、物語の序盤で信が沙織と薫にそれぞれお酒を飲むかみたいな件がありましたが、あれはどういう意図なのでしょうか。相手が高校生くらいならまだしも小6相手にちょっと違和感がありました。

 思うところもいろいろとありますが、全体的には見てよかったと思える作品でした。自分には経験のない家庭環境ですが、今もこれからもこういった家庭は少なからずあると思いますし、働く女性や男性の仕事への向き合い方、子育てや家庭内暴力など、とても現実的な問題を扱っていて考えさせられることも多々ありました。明確な答えが出されたわけではないですが、ひとつの家族の在り方として、何かヒントを与えてくれるような映画でした。重松さんの原作小説も読んでみようと思います。